Short


※本家の設定と一部異なります。

『アヤト、ちゃんと10秒数えてね』

「この間みたいにズルしたら許さないですよ…」

「わかってるって…いくぞ、いーち」

「じゃあーボクはあっちに行こーっと」

今日は母様の機嫌が良いみたい。父様に呼ばれたからかな?
父様に呼ばれて家に居ない間、私達兄弟(特にアヤト)は羽を伸ばす機会がなかったからこれ幸いと皆で集まって遊んでいた。バスケ、鬼ごっこ、お人形遊び、次はかくれんぼだった。無駄に広い広い我が屋敷でかくれんぼなんぞした日には誰もみつからずに一日が終わる可能性もあるので、皆隠れるところを限定していた。今回は地下と1階だけ、他の所に隠れたらアウトというルールだった。1階にライトとカナトが隠れたから私は地下に行くことにした。鬼のアヤトは2階で数を数えているからすぐに地下には来れないはず。どこに隠れようかと悩んでいると、運よく隠し扉を見つけた。この先に隠れればきっとアヤトはそう簡単には探せないだろうと思い、迷わず扉の先に行った。

キィィィィィ

バタン

『うちにこんなところあったんだ…』

扉の先は薄暗くて下に続く階段があった。かくれんぼで隠れるよりも下に何があるのか気になった私はどんどん下に降りていく。薄暗くて近くにあったろうそくの明かりを頼りに進む。階段が終わるとすぐに重そうな扉があって、子供の力で押すのは無理そうなものだった。だが、ここまで来ると諦められず力任せにその扉を押す。さすが子供とはいえヴァンパイア。力任せに押したら扉は開けた。

『うわぁ…』

「誰だ?」

目の前にあるのは黒い鉄格子の部屋がいくつもある部屋。母様の折檻でよく拷問部屋に入れられたことはあるが、こんな誰かを閉じ込めるような部屋を見るのは初めてだった。牢屋というものをよく知らなかった私は鉄格子で囲われるこの部屋をいいなと思ってしまった。だってここに居れば母様の怒鳴り声も折檻もキツイ稽古もないのだから。

「ヴァンパイアのガキじゃん…なんでこんなとこにいんだよ。くせーからあっち行ってくんない?」

『え?え?お兄さんたち誰?』

「オマエには関係ないだろ。つーかさでてけって言ってるのがわかんないの?」

「待て、シン。こいつは使えるかもしれない」

「兄さん?」

「貴様名はなんだ」

『逆巻名前。』

「逆巻?奴の娘か…」

鉄格子の内側に居る彼らは私をみるやいなや凄い目つきで睨んできた。見下げる金色の瞳がとても怖くてこういう目をされたことがなかった私は驚いて委縮してしまった。すぐさまここを出たいのに髪の毛の長いお兄さんの方が私をとどまらせる。彼は牢の中に居るのだから手出しできない、だから言葉を無視して扉へ向かえばいいのに何故かそれはできなかった。従わなければと思ったのだ。そう思わせたのは彼の気品漂う王の風格のせいなのか、それとも初めて見たこの人に見惚れてしまったせいなのか。

「私の名前はカルラ。これは弟のシンだ。ここは閉鎖的で何もなく退屈している。暇なときにお前の話を聞かせに来い」

『お話し?』

「お前の両親や外の話でもかまわん。私はずっとここに繋がれて退屈なのだ」

『そうなんだ、檻の中も幸せじゃないんだね…わかった!じゃあ名前またここにお話に来るね。今日は皆とかくれんぼしてるからそろそろ戻らないと…またね』

「ああ、また来い」

檻の中から少しだけ出された手で頭を撫でられる。優しくてひんやりした手は初めての感覚ですごく落ち着いた気分だった。母様にも父様にも私は頭を撫でられたことはない。できて当たり前、できなければ折檻、そんな躾だ。たまに機嫌のいい時にお菓子などはくれるが、私を構ってくれることなどなかった。だから私を見てくれる人が居るという事が嬉しかった。もう彼らにさっきのような怖いと思うような感情はなく、代わりに好きという感情が増えていった。
かくれんぼは私の勝ち、最後までアヤトに見つからず「ズルをした」など言われたがそれすら耳に入らなかった。私はあれから何度も何度もカルラ達の居る牢屋の所へ向かった。休憩や休日があるたびに向かっていたから兄弟で遊ぶ時間よりカルラ達といた時間の方が多かったかもしれない。それくらい私はカルラ達が好きだったし、心のよりどころだった。

キィィィィィ

『カルラー!シンー!』

「うるさいなー。声大きいんだけど!」

『ねぇねぇ聞いてお庭の植えた種がね、お花を咲かせたの!名前が植えたやつなんだよ。すごいでしょー』

「はいはい、すごいすごい」

『でしょでしょ!』

「最近お前の両親は何をしている」

『んーいつも通りかな…父様は忙しいし、母様は他の人とばっかりいるの…』

「そうか…」

「あのさー前から思ってたんだけど、オマエの母親頭イかれてんだろ。オレだったらそんな女願い下げだけどー」

『母様は…名前達より父様が大切だから…』

母様が私を見てくれたことなどほとんどなかった。唯一褒められたのは私の顔が父様に似ているという事だけ。それだって私越しに父様を見ているに過ぎなくて、私自信を褒めたわけではない。

『最近ねお稽古の日追加されちゃったの…要領が悪いからもう一日増やさなきゃって…多分ここあんまりこれなくなる…』

唯一の心のよりどころがなくなるのは悲しかったが、母様に逆らおうものならどんな罰が待っているかわからない。それにアヤトもこれに耐えているんだ、そう思うと自分一人ズルをするわけにもいかないし、頑張ろうと思える。

「名前…貴様は私の手を取る覚悟があるか?」

「!?ちょっと兄さん!?正気?コイツヴァンパイアだよ」

「黙れ、シン。…選ぶのは貴様だ、どうする?」

『…。名前、カルラ達と一緒に居たい』

「なら、いつか必ずお前を迎えに行こう」

『うん…絶対だよ』

小指をつなぎ約束を交わす。カルラは約束を違うような人ではないことは良くわかっていた。言ったからには必ず迎えに来てくれるだろう。それを信じて私は兄弟たちのいる部屋に戻った。
あれからもう10年。結局あの扉の向こうをくぐることはできなかった。その間に母様がなくなったり、ユイちゃんが来たりいろいろあったが16に成長した私には逆巻家の長女としての責任がついてまわり、それどころではなかった。どこに行っても逆巻家の長女として〜という言葉が付いて回って息がつまりそう。

『…カルラ。』

私の初恋の人。いつか迎えに来ると真剣に言ってくれたあの人はまだ私の事を覚えているだろうか?それともあれはただの口約束だったのだろうか…早くあなたに会いたい。私を逆巻家の長女から名前にしてほしい。

『会いたいよ…』

「へぇーアンタ随分良い女になったじゃん。」

懐かしい声がして振り向くとあの時見た姿と何も変わらない二人が居た。ああ、ようやく私の待ちに待った瞬間が来たのね。ようやく、「いつか」が来たんだね。

「私は交わした約束は違えない、共に来い名前」

約束

(貴方が来てくれるのなら、私は喜んで手を取ろう)

(例え行きつく先が地獄でも)



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