Short(R) | ナノ
年上の憂鬱

最近好きな女ができた。そいつは8つも年下でまだ中学生。中学生相手に恋愛感情をもつなんてレヴィじゃあるまいし、正気かと自分でもその気持ちに驚きを隠せなかった。ましてや遅咲きの初恋だ。なおの事自分の気持ちが信じられなかったが名前といるととても気持ちが安らいで、癒された。一緒に居るだけでとても気分が高揚して、戦っている時のゾクリとする時のそれとは違い、どこか胸が暖かく、そしてドクンドクンと高鳴った。これが人を愛しいと思う事なのかと、初めての感覚に照れと嬉しさが入り混じり何とも気恥ずかしかった。

『スクアーロさん』

名前は俺が日本に居る時は必ず俺のもとに来た。別に会おうと約束したわけでも、どこにいるとも言っていないが必ず俺を探し当てる。勿論俺がこいつの探せる範囲内の所でウロウロしているというのもあるが、中々名前に自分の気持ちを伝えられないからわざと見つかる所に居て、話しかけられるようにしているのだ。我ながらなんと意気地のないことだと思う。それでも中々自分から彼女にいけないのだ。何故か思っていることができなくなってしまう。こいつの前だとえらく調子が狂うのだ。

『これって運命だと思いません?私スクアーロさんが居るところすーぐわかっちゃうんですよ…だから私から逃げようだなんて思わないでくださいね。見つけちゃいますから』

「そりゃ運命じゃなくて単にお前がしつけぇからだろ」

『そんなことありませーーーーん!運命ですよ!その方がロマンチックでしょ?』

名前は俺の事が好きだ。それはもう出会った瞬間から猛アピールされているから死ぬほどよくわかっている。でも、自分はその気持ちに応えていいのか…俺の気持ちとしては勿論一緒になりたい思っている。お前の気持ちと同じだと言って愛を伝えたい。だが俺は暗殺者だ。これから一緒になるのであれば絶対にその話題は避けては通れないだろう。自分の好きな人が暗殺者だなんてきいたらこいつはどう思うか。一番可能性のある答えは「暗殺者は好きになれない」と振られること。そしてそれは俺が聞きたくない一番のセリフだから俺は今一歩が踏み出せない。例え彼女の気持ちを知っていても。

「お前は…お前は、俺がすげぇ悪者だったらどうする?」

『え!?悪者なんですか!?確かにいかにもって顔してますもんね』

「う”お”ぉぉい、そりゃあどういう意味だぁ」

『うーん、悪者ってあれですかね。バイ○ンマン的な?フリ○ザ的な?』

「…お前の頭ん中はどーなってやがる…」

でもきっと一般人の思う悪者なんてアニメや漫画に出てくるものぐらいしか思い浮かばないのだろう。血なまぐさい暗殺者なんて単語は片隅にもないはずだ。

『まあでも、どんだけ悪者でも好きになっちゃったからしょうがないですね。諦めて囚われのお姫様になります。ピ○チ姫的な』

「どんだけ凶悪なやつでもか?」

『うーん例えばですけど、スクアーロさんが暴力団とか薬の密売人でも好きな気持ちは変わらないと思うんですよね。というかその程度で嫌いになれたらここまで追いかけてませんし』

さらっと言ってのけてその言葉に、俺は少し胸が救われた。自分が一番気にしていることはこいつにとって“その程度”の事なのだと。厳密にいうとこいつが今言ったことよりワンランクもツーランクも上の凶悪なことをしているがきっとこいつは俺が暗殺者と告げても今みたいにそれでも好きだと言ってくれるんだろうなと思った。

「お前今携帯あるかぁ?」

『?ありますよ?』

「ちょっと貸せ」

借りた携帯は最新機器で自分と同じ製品だった。この製品は世界的にも多く利用されているため、他にも使っている人間はそこらじゅうに居るというのに、名前と一緒というのが何よりも特別な感じがして少し嬉しかった。
慣れた手つきで操作して俺の番号とアドレス、某無料会話アプリのアドレスをいれる。

「俺のプライベート携帯のアドレスを入れておいた、好きな時に連絡してこい」

『え?え?えぇぇぇ?????』

何が起きたのかわからないという顔をしたこいつが可愛くてついつい意地悪をしたくなってしまう。

「いらねぇのか?」

『いります!必要です!でもなんで急に?』

「一度しかいわねぇからちゃんと聞いとけよ」

『はいっ』

「名前が好きだ。俺と付き合え」

『jwqlじぇkjkうぇql。dじk』

「日本語を話せ、日本語を」

顔を真っ赤にして目を見開きながら信じられないと言わんばかりに口をパクパク動かしていて、そんな所すら可愛いなと思ってしまう。

『ふっ…不束者ですが、宜しくお願いしますうううううう』

その日俺はこいつとの関係に新たな一歩を踏み出すことができた。

年上の憂鬱

(はやく大人になれ)

(その時が来れば俺は悪者らしくお前を攫おう)


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