Short(R) | ナノ
年下の憂鬱
『スクアーロさぁぁぁぁぁぁぁぁんっ』
「きやがったな…」
嫌そうな顔をして私を見るのは、私の片思い中のお相手スクアーロさん。以前並盛に仕事で来ていた時に私が一目惚れして、以降猛烈アタックをしているのだ。向こうは私を子供としてしか見ていなくて、全然相手にされていないが、それでも負けじとアピールしている。ものすごく迷惑そうにしているが、何の印象もないただの近所のガキと思われるくらいなら、まだ迷惑なしつこい女として彼の記憶に爪痕を残そう。そう思ってスクアーロさんの気持ちを考えなしに追い掛け回している。
『今日は何してるんですか?』
「久々のオフをゆっくり喫茶店で満喫してたら、うぜぇ女に見つかったんだぁ」
『それは大変ですね!スクアーロさんの邪魔をするなんてこの私が許しませんよ。』
「お前だぁ、お前」
『またまたぁ、ご冗談を。あ、定員さーんアイスココア一つお願いしまーす』
「…帰る気ねーだろ、お前」
『もっちろん!そうそう聞いてください、この間山本が、あっ山本ってうちのクラスメイトの人なんですけどね』
聞かれてもいないのに、べらべらとスクアーロさんに最近の学校の話とか、間違えて道端の蛇踏んだ話、カビの生えた餅を知らないうちに食べてたんだけど別にお腹が何ともなかった話など、なんでもないような日常の話をスクアーロさんに長々と話す。最早私しか喋ってなくて完全に独り言の域だが、興味なさそうに私の話を聞いてくれる。スクアーロさんは本当に嫌だったらとっとと席を立って帰っちゃうような人だ。つまりすごい嫌がっているわけではないことがわかるので、私もそれに胡坐をかいてついつい長話をしてしまう。
『ってことがあって-----------』
「お前はいっつも楽しそうにしてるなぁ」
『毎日が楽しいですよ!特にスクアーロさんと会ってからそうなんです。いろんな出来事があると、スクアーロさんに次会ったときこれ話そうとか、そしたらどんな顔するかなとか考えるだけで楽しいので、一日に何回も楽しいを経験できるんですよ』
「…愉快なやつだなお前」
『スクアーロさんに褒められちゃった』
「褒めてねぇよ」
その時のスクアーロさんは珍しく笑っていて、こういう不意にでる表情がたまらなくキュンとする。好きだなぁってもっといろんな表情が見たいなぁって思ってしまう。
「なんだぁ?お前が静かだとこえーぞぉ」
『私にだってたまには物思いに耽ることがあるんですよ』
「お前の耽ることは、食いもんとか遊ぶ事だろぉ」
『ひどい!そんなことないですよ』
それからも私が一方的に喋りかけて、スクアーロさんは黙って聞いている。たまーに興味のある話題に返事をしてくれるだけだった。でもそれがたまらなく幸せで気が付くと空になったアイスココアの飲み物の氷がすべて解けていた。好きな人と話す時間はなぜこんなにも短いのだろう。
『私、そろそろ帰りますね。空も暗くなってきたし』
「…仕方ねーから送ってってやる」
席をたったスクアーロさんはそのまま出口へ向かって行って、お会計しなきゃだめですよというと、もう払ってると言われた。こういう所はずるいなぁと思う。そんなことされたらきゅんとくるに決まってる。…ほかの人にも同じことをしているのだろうか…。そう思うと急に胸がもやもやしてこの時間が楽しめなくなる。辛いなぁ…。
『スクアーロさんってやっぱりイタリア人ですよねーこういう事さらっとしちゃうし』
「あ”ぁ”?男が一緒に居たら会計で男側が出すに決まってんだろおがぁ」
『日本は違いますよー割り勘って文化なんです』
「割り勘だぁ?そんなの甲斐性なしのする事だろぉ」
『すごいこといいますね…そしたら日本人は皆甲斐性なしですよ』
たわいない話をしながらわざと遠回りで家に帰る。あなたと話す時間を一分でも長くしたいから。いつもは家に帰る道なんて長くも短くも感じないのにスクアーロさんといるとあっと言うまに感じる。
『スクアーロさんてイタリアの企業に勤めてるんですよね?』
「まあなぁ」
『よく、日本に居ません?私週2で会ってる気がすんですけど…』
「日本に本部があるからそれでなぁ」
『でも今日オフなんでしょ?イタリアに帰らなくてよかったんですか?』
「…お前はオレに帰ってほしいのかぁ?」
『いえ、私と付き合ってほしいです』
「断る。次の仕事場からだと日本の方が近いからここに居るんだぁ」
『随分グローバルな会社に勤めてるんですね』
「…そうだなぁ」
『私の家ここなんで、それじゃ。送ってくれてありがとうございます』
「あぁ、じゃあな…名前」
あぁ、ずるい。そんなのドキドキするに決まってる。私が家に入るまで見ていてくれるその視線もあたたかくて…なにもかもかなわないなと思ってしまう。
年下の憂鬱
(早くあなたに釣り合える大人になりたい)