Short(R) | ナノ
遠くに行った貴方

「てめーと互角なんざ、オレもまだまだだなぁ」

『失礼な言い方ね!光栄に思いなさいよ。この私と肩を並べられてるのよ?』

イタリア南部にある森におおわれるようにしてひっそりと建つその建物は、表向きはただのスクールだが、その実マフィア界隈では有名なヒットマン育成学校だった。通うのは腕の立つ将来有望な子供や有名マフィアの子息達。そんな強者がうじゃうじゃいる学校で私とスクアーロは常にトップ争いをしていた。

「オレは高みへ行く。てめーも届かねぇよーな剣の高みだ」

『それはテュールに決闘で勝つという事?』

剣帝テュール。剣の道を志す者ならだれでも知る名前だ。ヴァリアーのボスにして最強の男。彼の標的になってしまえば誰も逃れることはできない。鋭い銀の刃が暗闇の中その背後を一突きする。彼の華麗な剣捌きの前では何人も死を逃れることはできない。そう言われている。

「ああ。その為にはてめぇ程度と互角じゃ話にならねぇ」

『随分じゃない。私は踏み台扱い?』

「いつかてめぇはオレの踏み台になったことを光栄に思うぜぇ」

ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべたスクアーロの表情はとても10代の若者の表情ではなく、その笑みに少し身震いした。剣技なんかとてもテュールに勝てるようなものではないのに多分スクアーロはテュールを倒してしまうのだろうなと何故だかそんな風に思ってしまった。

『あら、じゃあ楽しみにしてるわよ。私が死ぬまでに達成しなさいよね』

決闘も終わりこれ以上長居は無用とその場を離れようとしたとき、彼の手が私の腕をつかみ私をその場にとどまらせるようにした。

「まて」

『何?用がないなら帰るけど…これでも仕事があるんでね』

この学校の成績優秀者はその辺のヒットマンより質がいいと評判で、学生のうちから仕事を受けている者もいる。私もその中の1人だ。別に失敗するような仕事ではないが念には念を入れるのは当然。早く準備に取り掛かりたかった私は、帰るのを阻まれて少し不機嫌になった。

「次てめーと勝負するとき、オレが勝ったらなんでも一つ望みを聞き入れろ。何を言われても聞き入れろ」

『は?何よ突然…じゃあ私が勝ったらスクアーロになんでも聞いてもらうわよ?いいの?』

「決まりだなぁ。学校卒業式当日式が終わり次第ここに来い」

『いいわよ』

その約束から2年後いよいよ卒業式が来た。彼は2年の間に大きく成長しなんとあの剣帝テュールを破ったらしい。らしい、というのはあの日以来私は一度も彼にあってないからだ。同じ学校に居るというのに不思議と一回も出会う事はなかった。

『遅い…』

卒業式が終わりすぐさま例の場所へ駆けつけたが彼の姿は何処にもなかった。2時間待っても3時間待っても結局姿を現さず、私は諦めて変えることにした。剣帝を倒したというその剣技、是非一度受けて見たかったが、彼はもしかしたら私の事などもう覚えていないのかもしれない。

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『ふぅーっ』

疲れた。ここ最近ずっと例のプロジェクトの事しか考えてなかったからな…ようやく肩の荷が下りたというか…いや、本格始動はここからなんだけどね!
あのイタリアのマフィア育成学校卒業後私はしばらくフリーの腕利きヒットマンとして活躍したが、殺しという仕事以上に今の業界に魅力を感じ数年前きっぱり裏社会から足を洗い、今は日本にある外資系の会社で働き一般人として過ごしている。

『…』

現役は退いたがこれでも元腕利きのプロだ。夜尾行されていればいやでも気づく。私の歩幅に合わせて近づくそれは、よく気配を研ぎ澄まさなければわからない程周囲に溶け込んでいる。これは相当腕の立つ者に違いない。何が目的かはわからないが、武器も何も持っていない自分は圧倒的に不利だ。

『(これは相手をまくより交渉した方がよさそうね…)隠れてないで出てきなさいよ…話があるの』

「流石にこの程度じゃバレるかぁ。久しぶりだなぁ…名前」

目の前に現れたのは自分より幾分も背の高い男で銀色の長い髪が月明かりに照らされ、ただの裏路地が幻想的な空間になっていた。見覚えのある鋭い目つきに太くて形の綺麗な眉、薄くて大きい口、高くスッと伸びた鼻。あれからずいぶんと時間たったせいで、すぐに記憶の中の幼い少年と彼が結びつかず一瞬誰だと少し身構えてしまった。少し見ない間に随分と色男になったものだ。

『随分遅かったじゃない…卒業式は8年以上前にもう終わってるわよ』

「うるせぇ!オレだって別に好きでばっくれたわけじゃねぇ!」

『…でしょうね。貴方が約束を破るなんて初めてだったもの。それで?8年越しに再勝負したいわけ?』

「あったりめーだ。てめぇと互角のままなんぞオレのプライドが許さねえ」

『そんなこと言っても私勝負しないわよ…見ての通りもう裏社会から足を洗ったの。今の貴方には100%勝てない。お話にならないレベルで力の差があるのよ。結果がわかってるのに勝負する意味なんてないでしょ』

「ならてめぇは負けを認めんだな?」

『ええそうよ。勝ちでも負けでも貴方の好きにして頂戴。』

「なんか釈然としねぇがまあいい。ならあの時の約束通り俺のいう事を聞けよ」

・・・。すっかり忘れていた…。そういえば負けた方が勝った方のいう事をきくんだったか?勝負したところで力の差は歴然であったが、その約束が生きているのならやっておけばよかった。あまり無茶を言われても、今はがっぽり稼いでいるわけでもないし叶えられるかどうか…。

『あまり無茶言わないでよ!私今一般人の給料分くらいしかもらってないんだから』

「安心しろぉ。金はかからねえ。」

『あ、そう。じゃあ何でもどうぞ』

「オレの妻になれ」

『…私耳が悪くなったかしら、なんですって?』

「オレの妻になれって言ってんだぁあああああ」

『うるさいわね!今何時だと思ってんのよ!!』

「てめぇが聞こえねぇとか言うからだろうがぁ!」

どうやら聞き間違いでなく、どうやらこの男に結婚を申し込まれているらしい。学生時代も突飛なことをするというので有名だったが、まさか交際をすっ飛ばして結婚を申し込んでくるとは…それも10年も連絡よこさなかったのにいきなりこれだ。

「なんだぁ?付き合ってる男でもいんのかぁ?なんならオレが今から未練がないよう殺してきてやるぞ」

『残念ながら居ないわよ。』

「なら決まりだなぁ」

二ヤリと意地悪そうに笑う顔はあの頃と何も変わらなくて、やっと彼が戻ってきたのかと実感した。

『暗殺者として腕がおちたから貴方のサポートなんかできないわよ?』

「わかってる。んなことで妻になれって言ってるわけじゃねえ」

『可愛げなんかないわよ?』

「元からだぁ」

『失礼ね…家事だってうまくできないのよ?本当にいいの?』

「オレがやる。名前だから妻に欲しいんだ。苦労はさせねえ、辛いことは全部オレがやるからなぁ。幸せにしてやる、だから黙ってオレの隣に居ろ」

『しょうがないから、口うるさくいつまでもスクアーロの隣で小言言ってあげるわよ』

帰ってきた貴方

(スクアーロいつから私の事気になったの)

(あ?一目惚れだ)


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