Short(R) | ナノ
必死な私達

彼のボス、XANXUSがとある事件で氷漬けになってからはや半年、彼は変わった。元々気が長い方ではなかったけど明らかに短気になったし、資料室にある古い本を読み漁り、そして行き場がない程むしゃくしゃするとそれをすべて私にぶつけるようにセックスをする。昔は激しくても、私の事を気遣ったり、どことなく優しさのあった行為だったのに今はそんなことお構いなしだ。現に今欲をすべてぶつけ終わった彼は私の事をガン無視でとっとと傍を離れていこうとする。

『待ちなさい』

「あ”ぁ”?」

『スクアーロこっちに来て』

「…何勘違いしてやがんだぁ。オレはお前と恋人ごっこがしたいわけじゃねー」

『ハァ…』

何を言ってもどうやら来てくれそうもないので仕方がないから私の方から彼にすり寄っていく。全く事後の女の腰の痛さがわからないのかしら。痛い腰を抑えつつゆっくりと起き上がりバスタオルを巻いて向かう。

『スクアーロ、貴方最近寝不足よ。目の下のクマも酷いし、イライラすることが多くなった。少し落ち着きなさい』

「うるせぇババア。オレの事にいちいち口はさむんじゃねぇ」

『黙れクソガキ。言われるのが嫌なら言われないように自己管理くらいしなさい。』

10も年下の男から見ればそりぁ私はババアなんだろうけどこれでもまだピッチピチの20代だ。スクアーロのババア発言に若干引っかかりつつも言いたいことはそれではないので、とりあえずクソガキと言い返して気持ちを抑える。手をつかんでそのままベッドまで向かうと、ものすごく嫌そうな顔をしながら、一応抵抗はせずについてきた。

『XANXUSが氷漬けにされようが、ヴァリアーが機能しなくなろうがそんなこと私にとってはどうでもいいの。ハッキリ言って氷漬けにされたのだって奴の自業自得でしょ』

「…あんまり口が過ぎるとその頭胴体から切り離すぞ」

『本当のことよ、言って何が悪いの。そんなことよりいつまでも突っ立ってないで座りなさい。』

「うぜぇぞぉおお。いい加減にしやがれ!お前オレに何がしたいんだぁ。」

『私の話を聞けっていってるのっ!』

あまりの聞き分けのなさに、思わず馬乗りになって抑え込む。とっさにやってしまったとは思ったけど、こうでもしなきゃスクアーロは私の話に耳を傾けてくれそうもないので、このままの体制で話す。

『…心配なのよ』

私とスクアーロは付き合っているわけではない。お互いが都合のいい時にだけ呼んで体を重ねる所謂セフレという関係だ。スクアーロが私をどう思っているのかは知らないが、私はスクアーロの事が好きで、だから付き合えなくても体だけでも一緒に居たいと思ってこの関係を続けている。つまり私の片思いというわけだけど、彼氏であろうとなかろうと好きな人の事は心配だし、だからつい余計なことも言いたくなってしまう。

『最近スクアーロイライラしてよくものにあたってるよ、食事だってあんまりとってる所見ない。夜遅くまでよく資料見てるしあんまり寝てないのも知ってる。本当に倒れるよ』

「構うかぁ、ほっとけって言っただろぉ」

『ほっとけないから言ってんでしょ。いつ倒れるのかハラハラしながら好きな人を見てるこっちの気持ちになっててみてよ!気が気じゃないわ。スクアーロにとってXANXUSが大事なように私にはXANXUSよりヴァリアーよりアンタが大事なの!…パパが言ってたのヴァリアーやXANXUSは24時間体制で見張りはするが、攻撃は加えないってだからスクアーロが心配するようなことはないの。ヴァリアーは独立暗殺部隊としてこれからもやっていけるの!……わかったら頼むからもっと自分の事大切にしてよ』

私のパパはボンゴレ9代目の守護者で今回の件についてもよく知っている。本当は他言無用なのだけれど、私がスクアーロの事を好きだという事を知っているパパは教えられるギリギリの範囲でXANXUSの事やこれからのヴァリアーの待遇について教えてくれた。多分これは本人に言ってはいけないことなんだろうけど、そんなこと構うかと気持ちを優先してスクアーロに話してしまった。好きな人を何とかするのにこっちも必死なのだ、心の中でパパに謝る。
スクアーロはしつこくてめんどくさい女を嫌うのはわかってたから泣かないつもりだったのに目がどんどんあったかくなって視界がぼやっとしてくる。とっさに離れて背を向けたら押し倒されてたスクアーロに腕を引っ張られて、私もベッドにダイブしてしまった。それでも泣き顔を見せるわけにはいかないと意地でも顔をむけないようにする。こんなにぐちぐち言ってくるだけでも十分に面倒くさい女なのに流石にこれ以上嫌われたくはない。

『離してよ…用事思い出したの…』

「嘘つけぇ…いいからこっち見ろ」

『やだっ…』

散々ごねていると実力行使に出たのか手で顔をつかまれて強制的にスクアーロの方に顔を向けられる。貯まっていた涙はもうすでに目から零れ落ちていて顔をつかんだスクアーロの手にも流れ落ちる。見られたくなどなかったのに、こんなことで嫌われるなんて嫌だと思うとさらに余計に涙が出てきた。止まれ止まれと思っても涙は泉の様に流れ出てくる。本当に勘弁してほしい。

「…泣くな…」

『うざい女だって思ってるんでしょっ…悪かったわねえっ!!』

「思ってねぇよ」

子供をあやすように頭を撫でるスクアーロの手が暖かくてすごく落ち着いた。こんなのどっちか年下かわかったもんじゃない。少なくとも嫌われたような様子はなかったので一先ず安心した。まだまだ涙は止まらないけど量はだいぶ減っている。クアーロに頭を撫でられるだけでこうも落ち着くなんて本当に不思議だ。

「今日はここで寝る、だからお前も心配すんじゃねぇ」

『うん』

「だから泣くな。」

手で涙をぬぐわれた後久しぶりに彼からの優しいキスを受けた。甘くて、優しくてとろけるようなキス。私の思いが伝わったのかどうかはわからないけれど、少なくとも今の自分の無茶な生活は改めてくれるようなので言ってよかった。

「好きな女が泣いて頼んでんの見りゃ、従うしかねぇだろぉ」

必死な私達

(いつの間にか涙は止まった)


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