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プロポーズ

今日は手紙が届いた。
とてもきれいな字で私の体を気遣うようなことが書かれていて最後に愛してるという言葉でまとめられていた。そういえば最近鼻水が止まらなくて困っていたんだった。よく見てるな…

今日は花が届いた。
一本の薔薇とメッセージカードがついてきていて、そこにはお前だけを愛していると書かれている。中々洒落たことをする。確か送る薔薇の数で意味が違う。1本は「貴方だけ」や「俺にはお前しかいない」という意味だったはず。

今日は有名なケーキ屋さんのケーキが届いた。
確か少し前にあれ食べたいなとこぼしていた気がする。しかも届いたケーキはまさに私が目をつけていたものですごく嬉しかった。勿論おいしく頂いた。

今日は綺麗な宝石が届いた。
プラチナとアクアマリンとい宝石でできた何とも高そうなネックレスで、一緒にあったメッセージカードには「昨日歩いてたら名前に似合いそうだったから買っておいた」そう書かれていた。いやいや私にはこんな高価なものに合わないだろ。精々その辺の300均とかで売ってる安物のネックレスがお似合いだ。

次の日も、その次の日も、毎日毎日贈り物が届いた。高そうなものが送られてきたり、かと思えば私を体や心を気遣うような物が送られてきたりと様々だった。いつも何が送られてくるのかわからなくて毎日の楽しみになってもいた。
ただし送り主が誰かわからないが…。
皆にそれを言ったらストーカーだだの、変質者だだの言われた。確かにどこで私の名前知ったとか、どこで住所知ったとか、贈り物の中には何でそんなこと知ってるの!?と驚きはたくさんあったが、悪さをするわけではなくただ毎日毎日私に贈り物でアプローチをしてくる人を私はいつしか気になりだした。恋愛的意味で。毎日疲れて誰もいない家に帰ったとしても、ドアの前には確かに誰かから向けられている思いが疲れた私を出迎えてくれた。毎日毎日、台風がきても大雨でも大雪でもクソ暑い猛暑でも絶対に届けてくれた。暖かい言葉も一緒に。その誰かは私にとってオアシスとなった。誰が何といおうとオアシスなのだ。だから警察にも連絡していないし、信用のおける友達にだけ話した。手放しで喜んではくれなかったけど、でも見守ってくれている。
そんな誰かもわからない人から贈り物がと届いてそろそろ一年が経とうかとしている頃、ある日に小さな箱と手紙が置いてあった。小さな箱は青くベルベットのような手触り中には美しい輝きを放つダイヤの指輪と手紙には「すべてを棄てて俺と共に来る覚悟があるなら一週間後9時に玄関の前に居ろ」と記されていた。

『おぉぅっ…ガチか…』

箱に入っているダイヤの指輪の輝きは本物で、この手紙から察するにプロポーズだとは思うのだが、常識的に考えて一度もあったことのない顔も知らない、名前も知らない、別に見合いというわけでもないのにそんな人と結婚だなんて可笑しい。さすがにそれはおかしい…頭ではそう理解していた。だけど何故か私の勘は、この人は生涯を共にする人だから受け入れろと言っている。こんなこと普通は思わないのだろうけど、今までの贈り物や手紙のやり取りで送り主の魅力を私は知ってしまっている。とても自分に自信があって、戦うことがとても好き。人を気遣う優しさもあって、何より私をとても愛してくれている。だから私はこの見たこともない送り主と付き合ったこともないのに結婚してもいいかと思ってしまった。むしろ私の事を貰ってくれる人はこの人しかいないと思った。両親がいつも言ってたな「本当にやりたいことなら、自分の心に正直に居なさい」と。ならば私の心はどうするか決まった。

『もうすぐ約束の9時か…』

ドクンドクンと心臓がうるさくなる。一年間私を思い続けてくれた人はどんな人なのだろう。面食いなわけではないけどあぶらぎっちょんちょんのおっさんだったら泣く。カツンカツンという音がしてドキドキしながら階段の方を見るとヒールをはいたお姉さんがまた上の階段へとのぼって行った。あー心臓に悪い…足音がするたびに誰か誰かとビクビクしていた。ちょうど約束の9時になったが足音はせず、もしやからかわれた!?と焦ったがそんなことはなかった。

「来たってことはオレにもらわれる覚悟はできたんだなぁ?」

真後ろから聞こえる少し大きい声に驚く。何に驚くって私は今階段を見張って今か今かと待っていたのに真後ろから人に話しかけられたからだ。ぐるんと後ろを振り向くといい意味で予想から大幅にずれた容姿の整った高身長男性が居た。驚きすぎて口をあんぐり開けたせいか初対面で盛大に笑われた。悲しい。

『笑わないでくださいっ!』

「そういう顔も可愛いから安心しろぉ」

凄いイケメンの銀髪のお兄さんに頭ぽんぽんされて、言葉にならない声が出る。免疫がないからこういうのされると本当にどうすればいいかわからなくなって顔が真っ赤になる。

「すべてを棄てて俺と一緒に来る覚悟はできたかぁ?」

『…はい。貴方と一緒に居たいです』

交際ゼロ日の結婚なんて聞いたことがないけれど、そんな例外があってもいいのかもしれない。第一今この人に会って確信した。この人は私の運命の人だと。別にイケメンだからほだされているとかそういうわけじゃなくて、運命の人とという表現が一番胸にすとんと落ちてくるのだ。

「指輪を出せ」

『あ、はい』

一週間前に置かれた高そうな結婚指輪を銀髪の人に返すとすっと左手の薬指にはめてくれた。なんだかすごく恥ずかしかったけど、そうなることが決められてたように彼の手からはめられる指輪は存在がしっくりとくる。

「どんな時もお前を生涯愛しぬくと誓おう」

『私も貴方をどんな時も愛すると誓いましょう。』

プロポーズ

(あれから10年たつがあの時の選択を間違いだと思ったことは一度もない)


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