Short（R） | ナノ
とある女の失恋
最近スクアーロが私の所へ来なくなった。
1ヵ月前まで週2であっていたのにだ。あの人に他の女が居る事は有名だし本人も隠そうともしないから勿論私は知っていたのだけれど、それでも私のところには必ず週2で訪れていた。多分他の女と違って身体の関係以外を私が求めなかったからだと思う。
いや、求めなかったというよりは口に出さなかっただけで、いつもあの人の一番になりたいと思っていたし、私だけを見て欲しかったし、普通のデートもしてみたいという欲望は勿論あった。でもそんなことを口にすれば捨てられることなどわかっていたから絶対に口にしなかった。週2という回数を必ず訪れてくれるのは私のところだけだったからそれだけで満足だったし、まーもしかしたらという希望を全く考えていない訳ではないが。
週2で連絡を取り合っていたのに1ヶ月も連絡を寄越さず、訪れないという事は多分、捨てられたということ。捨てられたというのがわかっていても彼からの連絡があるのではないかと、携帯が震える度に期待して、連絡先を見てがっかりして…の繰り返しだった。
ブーッブーッブーッ
また携帯のバイブがなる、もう絶対スクアーロではないことなどわかっているのにそれでも、1%の確率に縋ってまた大急ぎで携帯をとってしまう。
「うそ……」
相手は待ち望んだスクアーロだった。まさかほんとに電話をしてくれるとは思わなくて、嬉しくてすぐにに電話に出た。久しぶりに聞く彼の声にどうしようもなく胸が高鳴り、ここ1ヶ月の憂鬱がスクアーロの電話1本で一瞬にして掻き消えた。
「仕事…忙しいのね」
気持ちとは裏腹に少し冷たい態度をとってしまう。それは暫くの間私を憂鬱な気持ちにさせてた腹いせだった。もっと可愛い事が言えないものかと自分でも呆れてしまうがしょうがない。
「…好きな女ができた。もうお前とは会わねぇ」
頭を鈍器で思いっきり殴られたような感覚がした。それは今まで私が一番恐れていたことで、それを伝える彼は対して申し訳なさそうでも、苦しそうでもなく、普通の世間話の様に淡々と話していた。その声だけで割りと長い付き合いの私はすべてわかってしまった。この人は本当に私にもう興味がないのだと。私のことなどなんとも思って居なかったのだと。スクアーロのセリフに絶望しながらブツっと切られた電話に唖然とする。急に悔しくて苦しくて憎くなった。私から離れていくスクアーロと私が好きで好きでたまらない人を手にした女に。その女より私の方が確実にスクアーロのことを理解しているし愛しているのに。何故スクアーロは…。
「ぅっ……ふぅっ…」
あれから涙しかでなくて辛くて、そんな日が何日も続いている。何度もスクアーロを諦めようと努力したけど到底諦められるものではなくて、スクアーロが思い寄せた人物がどんな人なのか知りたくなった。その人が私より完璧な人なのであれば私の努力が足りなかったのだからと自分のせいにできる。でもこのままではスクアーロは悪くないのに私を選んでくれなかったというだけであの人を憎く思ってしまうから。それは避けたかった。だから探偵に調査を依頼して彼の思い人を調べた。名前は名前。日本出身で何も知らない一般人だった。見たところ容姿は普通。一般人なので特に戦闘が得意というわけでもなく、自分に劣っているところは何一つなかった。何故この子が選ばれて自分は選ばれなかった？なんで？どうして？急にこの女にいら立ちが募る。私が苦しい思いをしているのは、スクアーロに捨てられてのは、この女のせいなのかと見当違いにもほどがあるとはわかっていながらも思わずにはいられなかった。きっと彼はこの子が現れなくても私を選ぶことはなかったというのに。スクアーロの隣でにこにこ笑い写っている写真をぐしゃぐしゃにしてやるせない気持ちを無理やり静めようとした。でもやっぱりそんなことでは収まらなくて私の目で彼女を確かめたいと思い、彼女が一人の所を見計らって話しかける。
「貴女がっ…」
『えっと…どちら様で？』
悪くない、彼女は悪くない。誰も悪くないとわかっていながら彼女を見た途端頭に血が上って思わず叩いてしまった。私は私が棄てられた理由を別の人間になすりつけてるだけだ。本当はわかっているのに…。しまったと思った時には凄い音が鳴っていて、叩かれた彼女は驚いてこちらを見ていた。
『いててっ…お姉さん中々強烈ですね…』
「ごめんなさい、ごめんさい。貴女は悪くなのに…私は自分が選んでもらえなかったいら立ちを貴方にぶつけてしまって…」
『？』
「愛しているの、とても愛しているの」
そこまで言うと彼女は自分がどういう人間で何を言いたいのか大体察しがついたようで、優しい目をして泣きながら話す私にそっとハンカチを出してくれた。
『同じですね…私も彼の事愛してます。私は最近スクアーロに会って一目惚れしました。きっと好きだった期間も愛の重さも貴女の方が多いのかもしれません。それでも私も彼が好きなんです、愛してます。こんなぽっとの女に自分の思っている人をとられるなんてとっても腹立たしいし憎いと思うと思います。私は彼に辛い思いもさせないし、幸せにします。そう誓います。認めてくれととは言いませんが、渡すことはできません。別れることはどんなに言われてもどんなに殴られてもしません。できません。ごめんなさい。』
芯の強い女性だなと思った。私なら突然自分を引っぱたいた女にこんなことは絶対言えない。こういうところにスクアーロは惹かれたのだとすると自分にはこんなことできないし、素直に負けたなと思えた。こんな人が彼の横に居るならきっと彼は幸せに過ごすことができるだろう。まだ、全然傷は癒えていないし、苦しくて辛いけど何とか前に一歩前進できた気がした。
とある女の失恋
（スクアーロへの恋心はもう少し胸に留まるだろう）
（辛く苦しい失恋にはなったが恨んだりすることはなくなった）