スタート


『…。貴方のその様子では自ら進んで私とお見合いしたかったわけではなさそうね』

もしそうだとしたら、私に銃なんか向けてこないし、そんな殺気立った瞳で見ない。それに“誰だ”なんて聞いてこないだろう。どういう理由でここにきているのかは知らないが、双方見合いの意思がないのなら話は簡単だ。事を荒立てずに普通に取り辞めれるのなら面倒事も少ないし助かる。

『角が立たないように貴方から断っておいてね。それじゃ』

「待て」

ばしっと思いっきり腕を掴まれる。さっきまで別の女を触った手で触られるなど虫唾が走る。それに加減をせずにつかんでいるせいか掴まれた場所が圧迫されて痛い。その手を思いっきり払いのけると勘に触ったのかピクリと眉を動かしている。

『女の手を握るときはもう少し優しくして頂ける?それと命令されるの嫌いなの』

「うるせぇ。オレと付き合え」

『聞こえなかった?命令されるの嫌いなの。それに貴方と私じゃ釣り合わないわ』

「てめぇは耳もねーのか、話聞け」

『…命令されるのは嫌だって言ってるんだけど?難聴なの?』

話を聞く、聞かない以前にその不躾な態度が気に入らないわ。これは一回どっちが上かはっきりさせなきゃね。主従をはっきりさせれば、はむかうなんて馬鹿なことしないでしょ。
拳いっぱいに炎を纏わせボクシングの構えで男に向き合う。
女と思って甘く見ることなかれ、私の筋力はその辺の男よりよっぽど強い。それにかすっても嵐の炎が分解を始めるから怪我をする。
私が手から炎を出すと赤い双眼が驚きに見開かれた。
それはそうだろう普通炎を出すにはリングという媒介が必要で手から出せる人間など私は自分以外に見たことがない。

『行儀の悪いわんちゃんには躾しないとね』

「言ってろ、ドカスが」

誰が言ったわけでもない。だがお互いがお互いの空気を読み取り先手を取らすまいと攻撃を仕掛ける。ヤツの得物は銃。射程距離に入れば厄介なことこの上ないが外れれば問題ない。それに銃は止まってるものを打つのには有効だけど私の様に素早く動く人間には不向き。素早く後ろを取り宇宙投げ…いや、後ろをとった段階でまず関節を外そう。
流石はヴァリアーのボスと言ったところか正確に急所を狙って打ってくる。逃げるふりをしつつようやく後ろをとれた。

『拳にしか注意が向かなかったようね』

「てめーこそ注意が散漫だな」

関節を外そうと銃を持つ手を握り後ろに回すと関節を外した瞬間、私の掴んでいた手が焼け付くような痛みに襲われた。

『あ”ぁ”っ…い”っ』

焼け付くような痛みというより腕が焼けていた。それも私の炎である憤怒の炎によって。意味が分からず、とりあえずこれ以上攻撃を受けるとまずいのでその場から離れると、男の手からは確かに私と同じ憤怒の炎を手から出していた。何の媒介もなしに。

「威勢がいいのは口だけか?」

『くっ…』

この私が膝をつかなきゃいけないなんて…。しかも男に。大変屈辱的だが素直に認めよう。こいつは強い。
脱臼した腕をいともたやすくはめると、人を見下しながら近づいてくる。立てない私に腕でも差し伸べるのかと思ったら私の服の襟の部分をつかみ持ち上げた。

「二度目はねえ。覚えとけ」

『…わかった…だから離してくれる?痛いわ。』

人が痛いと言ったのがまるで聞こえていないのか、離してと言った瞬間手を放したものだから重力に従って私の体は下に落ちしりもちをつく。尻餅をついた私になおも詰め寄り、今度は逃がすまいと首掴み床に叩きつける。じんじんと背中がピリピリする中見下している男は私の上に乗り体をがっちりとホールドする。

「話を聞け」

『…聞いてるから』

「オレと付き合ったふりをしろ」

『ふり?』

「オレに特定の女が居ないとあの老いぼれは次から次へと見合いの話を持ってきやがる。」

『ようは女避けって事?』

なんだ、それなら大歓迎だ。こっちもうるさいババアが黙ってくれて助かる。それに今ここでボンゴレとパイプを作っておけば100%ファミリーにとっても私とってもプラスになる。ここで恩を売るのも悪くないか。

『いいわ。付き合ってあげる』

「おひいさまここにいらしたんですか!?」

さっきの私の苦しんだ声でここがばれたのか使用人がわらわらと集まりババアも聞きつけて部屋に来た。ここでさっきの戦ったのがばれると話がややこしくなる。怪我した腕をすっと後ろに隠し、皆の前で笑顔を向けいかにも仲のいい男女を演出する。言い出しっぺだというのに男は仲良く見せる気もないのか先ほどと同じくぶすっとして表情を変えない。

『きいて、見合いが必要なくなったわ』

「まだそんなことを言って-----------」

『私、この方と結婚を前提に付き合うから』

周りのポカーンとした表情。あれだけ頑なに嫌がっていたというのに自分たちが居ないところでいったい何が起きたのか不思議そうな顔をしていた。母もそれは同じだったが、娘がようやく結婚を前向きに考えてくれたのだ。水を差すわけにはいかない。と思っているのか、深くは追及してこなかった。

スタート

(お互いのメリットの為に組んだ奇妙な関係が始まった)


  
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