『さがさなきゃ…すくあろ…さがさなきゃ…』

涙と鼻水でべちゃべちゃになった顔がひんやりとして、泣きはらしてしばしばする目が自分を少しずつ冷静に戻していく。
私はこんなことをしている場合ではなかった。スクアーロを探さなきゃ。もしこれでもう二度とあえなくなってしまったら、それこそ私は生きていけない。今ならまだそう遠くには行ってないはず。
洗面所に行き顔をさっぱりとさせて、気合を入れなおした。それでもやはり涙は出てくるけれど、先ほどよりかは顔も心もマシになってる。
以前ランニングの為に購入したスニーカー。結局三日坊主でそれ以降あまりはかなくなってしまっていたが、今こそこれの使い時だ。別にこれを履いたからと言って足が速くなるわけではないが、それでもヒールより全然走りやすいし、足も痛くならない。今の私にはそれが何より大切だった。

スクアーロの家
スクアーロとデートで行ったカラオケ
スクアーロと一夜を過ごしたホテル
最寄りの駅

様々な所にスクアーロを見ていないか聞いたが「知らない」「見てない」「答えられない」等々手がかりになりそうな話は一つも聞けなかった。

『どこに泊まるつもりなんだろ…』

私の所に居ないという事は今夜泊まる場所を確保しているに違いないと思いそれらしい場所を探してみたがやはり見かけなかった。
日本では基本的に野宿は禁止されているし、他に行きそうなところに心当たりはない。

『もしかしてベルって人の所?』

でも、だったら声をかけたあの時「先輩が家に居るから早く引き取れ」とかいいそうだし。それがない所を見るとおそらく行先を知らない…。
それに私はあのまま言われなければ呑気に買い物をしていたわけだし、その方がスクアーロの逃げる時間稼ぎになるわけだからスクアーロの味方ならあえてそんな時間をカットするようなことは言わないはず…つまりスクアーロはベルって人の所にお邪魔してる可能性も低いし、あの人もスクアーロの逃亡に加担してる可能性も低い。だからベルさんの付近にはいない…。

『やっぱり他の女の所に転がり込んでる可能性が高いな…』

だとしたら、探すのはかなり難しい。スクアーロの交友関係は広いし、それにスクアーロならそのあたりの全然知らない女の子に声かけて今夜泊めろとか言いそうだし、相手もそれをOKしそう。

『どうしよう…もうやだぁ…』

このままじゃ本当に…。もうあきらめるべきなのかな…。でもそんなの無理だし。
駄目だ、また焦ってる。飲み物でも飲んで休憩しよう。丁度目の前に自販機もあるし。

『あ、これスクアーロが飲みたいって言ってた限定の…』

思考を落ち着けるつもりだったのに、何を見てもスクアーロに関連付けて考えてしまってそんな自分に飽きれてしまう。やっぱり離れるなんてできないな。もし、このまま見つからなかったら身投げしよう。
私が選んだのは有名ブランドから限定で出た缶コーヒー。さっき言ったスクアーロが飲みたがっていたものだ。本当は隣のミルクティーを買うはずだったのに、手が吸い寄せられるようにこれを選んでいた。

『はぁあ…』

「ため息なんか、ついちゃって…お姉さんなんか嫌なことでもあった?目も腫れてるし…もしかして振られたとか?」

周りに誰もいないし、話しかけられてるのは多分私。
その男は何処にでもいそうな日本人の平均的な顔に、清潔感がありつつ流行を取り入れたファッションをした20代真ん中くらいの男だった。一言でいうなら知らない人である。

『ちっ!…ちがい、ます。』

振られた…振られたのか?私…。振られたっていうか逃げられたんだよね。いや、意味同じか…。

「男の傷は男でしか癒えないよ。ねえ俺使っちゃいなよ…今フリーだし、彼女探してたんだよね」

『いえ、あの大丈夫なので…』

「大丈夫だったらそんな今にも死にそうな顔してないでしょ。ね、俺でその気持ち塗り替えよ」

『…』

口を開こうとした瞬間急に不自然な眠気に襲われて、男の居る方に体が傾いた。何か言っていたような気もするけど、何を言っていたのかまでは聞き取れなかった。






『あれ…私…』

目を開けたらそこは家の玄関で、なんと私は靴を履いたまま寝ていた。とりあえず靴を脱いで家へ上がると誰もいない寂しい部屋が出迎えてくれた。

『そんな都合のいい夢…あるわけないか…』

確か昨日スクアーロを探して、それで休憩して…あぁ、スクアーロがなかなか見つからなくてとりあえず帰ったんだった…。何のケアもせず寝たせいか瞼が重い。今日会社休みたい。何も考えられないのに正直仕事どころじゃない…。いや、こんな時こそ仕事した方が良いかも…というかどうせこもってたってすることないよね。この時間なら風呂入ってゆっくり支度しても間に合うだろうから、急がず慌てず心を落ち着けることに専念しよう。
脱衣所でさあ服を脱ごうとしたとき、がちゃという扉を開く音がした。『もしかして、もしかして』と、ありもしないとわかっていながらはやる気持ちを抑えられず、走って玄関まで行った。

「ただいま」

『おかえりっ…おかえりっ』

朝焼けの幸福

(あなたがいればそれでいい)
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