『スクアーロの匂いがする…』
今のスクアーロからは人工的な香りが一つもしない。髪の毛もスクアーロの皮脂の匂いしかしないし、身体も舐めたらすこししょっぱくて汗臭い男の香りがする。世間一般ではこういった香りは不潔とみなされて受け入れられないのだろうけど、私からしてみればスクアーロから体臭以外の匂いがする方が嫌だ。香水の匂いは勿論、ボディーソープの匂い、シャンプーの匂いなんかも無理だ。スクアーロが纏っていいのは自分の体臭か私の匂いだけ、他の匂いは全部悪臭。
ボディーソープやシャンプーなんて使ったらそれと同じメーカーを使っている人とスクアーロがお揃いの匂いを纏ってることになる。
そんなの絶対に嫌、スクアーロのおそろいは私だけでいいの。私の匂いを移すのもいいけどスクアーロの本来の匂いを私につけてほしい。
「…風呂くらい入らせろぉ」
『んースクアーロがかゆくてたまんなくなったら良いよ。それまでは我慢してね』
「かゆい」
『一日、二日じゃそんなことなんないよ、身体かゆくなるのは四日からじゃない?』
「てめぇそれまでオレの事風呂に入れねぇつもりか?」
『そうだよ。あ、でもソープ系使わなければ湯船に浸かるくらいはさせてあげるよ』
「それでもいいから風呂には入らせろぉ、汚ぇまま一緒に居たくねえ」
『汚くなんかないのにな、でもそういう事なら入れてあげるよ』
これも監禁してる効果かな。あのスクアーロが私の事を考えて動いてくれるなんてね。
私の身長でものびのびと足を延ばすことができない小さめの私のお風呂じゃスクアーロはきっときついだろうけどそこは許してほしい。
小さめの風呂にそこそこお湯を入れ、素っ裸になったスクアーロを入れる。勿論鎖に繋がれたままだ、動きづらいことこの上ないだろうがそこも我慢してもらう。
「まて、まてまて」
『ん?』
「ん?じゃねえ!まさかてめぇも一緒に入る気かぁ!?」
『だって逃げられたら困るし、それに恋人なんだから一緒に入ってもおかしくはないでしょ?』
「…そりゃあそーだが、いいのかぁ?」
言いにくそうに、目を伏せてそらしながら「昨日も風呂入ってねぇんだぞ」と言われた。ああ、スクアーロは湯船に自分の垢が浮いてるとかそんなこと気にしてるのか…確かに湿度の高い蒸された状態の頭皮は普段の頭より臭うしね。勿論私は平気だけど。
『言ったでしょ、私スクアーロの匂い好きなの』
「てめぇが好きとかそういう問題じゃねーんだよ。身だしなみの話だろぉ」
『大丈夫、ここでは私がルールだからスクアーロが気にしなきゃいけないのは私の評価だけなんだよ?それが“いい”って言ってるんだからいいんだよ』
お湯につかっているスクアーロをスポンジで優しく擦ると、身体にまとわりついていた気泡が抜けていく。触るとすぐ離れていくそれはなんだか私とスクアーロの関係みたいだ。体だけをつないでも意味はない。でも体だけでもつながないと終わりが見えそうで私は怖い。
私は何をしたいのだろう。愛してるの一言で片づけられないこの気持ちが面倒なのに、離しがたい。
考え事に熱中していたら、ぼーっとしていたようでスクアーロに心配な顔をされた。いけない、私がこんなんじゃスクアーロは私だけを見てくれなくなってしまう。
『ちょっと考え事しちゃったー、ごめんね』
ブラシで輝く銀色の糸を丁寧にとかすと、水と交わったそれはとても髪の毛とは思えない程輝きを放っている。汚れが取れるよう丁寧に何回もとき、ゆすぐ。するとさっきまでの香りが嘘のように何の匂いもしなくなった。
たっぷりと水を含んだ髪の毛はスクアーロの体に張り付いて、スクアーロの魅力をより引き立たせた。ハッキリ言ってエロイ。
『水も滴るいい男、だね』
「当たり前だろぉ」
繋いだ身体と欲しい心(スクアーロの匂い消えちゃったね、早く私の匂いをつけないと)