08


『シン!ちょっとシン用があるので来てくださいよー』

「あのね、オレはアンタの使い魔じゃないんだけど!あーもうなんでファーストブラッドのこのオレがヴァンパイアまじりの女にこき使われなきゃなんないわけ」

『そんなのあなた方がここに私達を閉じ込めてるからですよ。そんなことより、少し相談があるんです』

始祖王の息子として、大事に大事に育てられ、今までその我儘っぷりを十分に発揮して育ってきたシンは誰かに何かをさせたことはあっても、したことはなかった。そんな彼が赤の他人、しかもヴァンパイア交じりの女の世話を突然任されて、イライラしない訳がなかった。始祖ともあろうものがこんな女にへこへここき使われるなんてプライドが許さない。それでも彼女の世話をちゃんとやっているのは尊敬する始祖王である兄に任されたからに他ならなかった。

「大体アンタ捉えられてる身なんだよ。ちょっと我儘言い過ぎじゃない?身の程を弁えなよ」

『そちらの都合で囚われているのだからこのくらい譲歩しなさい。そんなことより、これどう思います?』

これと刺されたのは女性向け雑誌に載っているタートルネックのワンピース。青を基調としたそれはウエストの部分が黒いリボンで締められていて体のラインがくっきりわかるタイプの物。こういうタイプのワンピースは着る人を選ぶ、寸胴、痩せすぎ、太り過ぎはNG。こういうのが似合うのは、でるとこでて締まるところ締まった様なセクシーな体型の女性だ。
勿論これは私が着るのではなく妹にプレゼントする服だ。実は近々アンナは誕生日を迎える。それで誕生日プレゼントに今私が指差している服を送ろうと思うのだけど、今一決め手に欠けていて、他の人の意見も聞こうと思いシンに話しかけたのだ。本当は妹に直接聞いても良いのだけれどできれば驚かせて、サプライズをしたいから内緒にしたい。

「知らないよ、そんなこと。第一なんでオレに聞くの、兄さんに聞けばいいだろ」

『シンがオシャレだから聞いてるんです。せっかくならセンスのいい人の意見を貰いたいでしょ』

別にカルラのセンスが悪いと言っているわけではないが、前にカルラの自室の内装についても言ったことがあるがカルラと私の好みは少し違っている。あれはあれでいいとは思うが、私の求めている方向性とは違うので今回相談するのはやめた。
シンは、ファッションに強いこだわりを持っているというだけあっていつもトレンドを抑えつつ自分に似合う服を着ている。私が好きな服装をしていることが多いのでいつもオシャレだなーと思い見ていた。

「ふーん。アンタなかなか見る目あるじゃん。しょうがないから特別に見てあげるよ。で、どれ?」

私の言葉に気を良くしたのか、ドヤ顔で話すシン。そんなに扱いやすくて大丈夫か、始祖と思ったがせっかく見てくれるようなので余計な言葉は噤むことにしよう。

「似合うんじゃない?悪くないと思うけど、それよりこっちの服の方があの女に合うと思うな」

『あー見てませんでした。確かにアンナにはこっちの服の方があいそう……』

シンは私の選んだ服が載っているページの端っこにあったショッキングピンクのニットワンピースを指した。あんまりこういう色の物をアンナは着ないけど、よく見ればとっても似合いそう。アンナは寒色系の服は持ってるし、どうせ贈るなら本人が持ってなさそうな物を贈りたい。

『うん、これにします。選んでくれてありがとう。』

「全く、始祖のこのオレに選んで貰ったんだから光栄に思ってよね。そにしても、何がそんなに嬉しいわけ?」

『?』

「気づいてないの?アンタ妹の服選んでるときずっと笑ってたよ」

笑っている?ふと自分の顔を鏡で見るとそこには口角をあげ幸せそうな顔をした自分が映っていた。こんな顔したのは久しぶりだ…やはり贈り物は相手にも自分にも幸福をもたらしてくれるのね

『だって人のプレゼントを選ぶのって楽しくありませんか?私の贈り物が相手に幸福を与えているのだと思うとそれだけで私は幸せに思います。選んでいる時間でさえドキドキする』

「アンタ変わってるね。それ貰うの自分じゃないんだよ。あげる側なんて損するだけでしょ、時間話奪われるし、金もとられるし」

『それを“損”と捉えるか“幸福”と捉えるかはプレゼントを贈る相手との関係によりますよ。いつかシンにもそう思える日が来るといいですね』

プレゼント

(贈る側も貰う側も幸福を得るものである)




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