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僕のカナリアの続き



 やめて、いたい、おねがい、といくら懇願しても男はやめる気配を見せず、わたしの首を掴んで冷たい床に押し付けた。綿埃が舞い、気管に入ってごほごほと咽せる。男は苛立ったようにうるさいな、と溢したがその顔には笑みが広がっていた。ひっ、と怯えたような声を出し、尚も掴みかかってくる男にやめてと繰り返せば、彼は「その顔が見たかったんだよ」と嗤った。

 男はいつもわたしを虐めるのを楽しんだ。今日は服を引き千切られ、手首を縛り上げられ、身体を暴かれる。そうして泣き叫び恐怖する姿を見て楽しんでいるのだ。彼は普段の優しそうな雰囲気などまったく感じさせず、ニタリと意地の悪い笑みを浮かべ、そしてわたしの身体の上に乗って硬くなったナニカを態とらしく擦り付けてくる。
 やめて、いやだ、おねがい、と尚も懇願する私に男が興奮しているのがわかった。瞳はギラギラと獣のように光り、捕食せんばかりに見つめている。今まで何百回もやめてくれとお願いしてきた。しかしその言葉は彼を悦ばすだけに終わり、わたしの願いなど一度も聞き入れられたことなどない。懇願するわたしに男は、うるさい口だよね、と言ったが本当にうるさいなどと思っちゃいないだろう。わたしの悲鳴が好きなのだ。わたしの懇願が好きなのだ。わたしを虐めるのが、この男の生き甲斐なのだ。

「おねがい、も、やめて、ハリー」
「うるさいなぁ。分かってるでしょ、そんなこと言っても僕がやめるはずないって」
「もう、ほんとに、やだ、」
「ははは、君って呆れるくらい学習能力がないね。黙らないならその口塞いじゃうよ?」
「やっ、だめ! おねがいハリー、やめて」
「だーめ。ああでも、この空き教室には防音呪文をかけといたからさ、喘ぎ声ならいくらでも出していいよ」

 まるで親友の二人に向けるような柔らかい笑顔を浮かべたかと思いきや、彼は裸に剥いたわたしの乳首をガリッとかじる。痛みと快感に悲鳴を上げる姿を眺めながら、皆からは英雄などと呼ばれる男はくつくつと喉を鳴らして嗤った。その豹変ぶりに普段の彼は偽物で、こちらの彼の方が真の姿なのだと思い知らされる。闇の陣営も真っ青な邪悪っぷりだ。わたしは震える身体をなんとか抑えようと試みたが、それは土台無理な話で、これからされることを想像して目尻にじわりと涙が滲んだ。

「もう、いやだ、恥ずかしい、やめて、」
「この間は大人の玩具で悦んでたし、一昨日は目隠しプレイであんなにあんあん啼いてたじゃないか。今日のはまだマシでしょう?」
「そんな、だってこんな、き、緊縛プレイなんて、恥ずかしい」
「へぇ? 緊縛プレイなんてどこでそんな言葉を覚えてきたの。なまえは悪い子だね。僕に黙って他の男の相手でもしてたわけ?」
「な、ち、違う! そんなことするわけない!」

 こっちはあんたの相手だけでもう死にそうなのに、とは口が裂けても言えなかった。そんなことを言おうものなら恐ろしいお仕置きが待っているだろう。もうこんな仕打ちは嫌だと思いながらわたしは涙をこぼした。背中に当たる床が冷たくて硬くて痛い。

「お願い、床が痛い。冷たいし……こんなとこじゃい、いやだ」
「ふーん、僕に口答えするんだ? なまえはいつからそんなに偉くなったのかなぁ。まだ僕のものって自覚がないの? そんな悪い子にはお仕置きしてあげなくちゃね」
「え! やだやだ、やめて! もうやだあ!」
「だーめだって。悪い子のなまえがいけないんでしょ」

 そう言って幼なじみだった筈の男は一際綺麗で邪悪な笑みを浮かべたかと思うと、わたしの首筋にまるで吸血鬼のように思いきり噛み付いた。ひっ! と痛みに悲鳴を上げ、顔を歪めると彼が笑ったのが分かる。首筋からはじわりと血が滲み、垂れ流れる血を舐め取られた。口元を真っ赤にした彼は実に愉しそうで、窓から漏れる月の光で本物の吸血鬼のように赤く染まった唇が光っている。わたしはまた恐怖を感じた。このままでは喰い殺されるのではないだろうか。ぐずぐずと鼻を鳴らしながら「もうやめて、痛い、いやだ」と言えば、男はニタリと笑って愛しそうに私の頬を撫でた。

「嘘つき。今ので感じたんでしょう? 濡れてるよなまえ」
「ひぃ、ぁあっ」

 男は私の股と股の間に膝をぐりぐりと容赦なく押し付けてきた。局部がじんと熱を持ち、容赦のない快感に何も考えられなくなる。それでも恥ずかしいものは恥ずかしいもので、止めどなく溢れる涙がわたしの顔を濡らしていく。彼はわたしの顔を伝う涙を舌で舐めながら「しょっぱい」と言った。この男は頭がおかしい。どうしようもない変態だ。それでも、何をされても逃げられないのは、結局のところわたしに残された道はこの目の前の変態に迎合する他にないからだ。

「なまえの耳たぶって美味しそうだよね。食べちゃいたい」
「ぜ、絶対やめて! おねが、ッ、いったぁ、!」
「すごく甘い。美味しいよ」

 耳たぶに噛み付かれた。そのまま舌先でちろりと舐められ、何かを掠めとられる。男の口元には誕生日にヤツから強要され無理矢理に着けさせられたピアスが咥えられていた。

「いたい、いたいってば、やめ、」
「このピアスやっぱりなまえに似合うね。でも魔法の効力が切れてきたからもう一度魔法を掛け直してから返してあげるね」
「ま、魔法? 魔法なんて掛けてたの?」
「そうだよ。なまえが僕だけに感じる魔法」
「なっ、なんて魔法を…! この、へ、変態! 馬鹿!」
「恋する男は皆馬鹿なんだよ。でも変態っていうのは気に入らないなあ。なまえだって変態のくせに」
「な、私は変態なんかじゃない! 私はあんたに無理矢理…! だから仕方なくっ!」
「なまえの嘘つき。もう普通のセックスなんかじゃ我慢できない痴女のくせに。前にノーパンで授業受けさせた時なんかどろどろに愛液を溢れさせてたじゃないか。嘘はダメだよ。またアレをされたいの?」
「ひっ! アレだけは、アレだけはもうやだ!」
「どーしよっかなー」

 ニタニタ笑う彼はただのイジメっ子だ。それも相当悪質なタチの悪いイジメっ子。お願い勘弁して、と思いながらわたしはこのままでは駄目だと思い男をキッと睨み付ける。その反抗的な目に彼は嬉しそうに目を弓なりにしながらわたしの髪の毛を力強く引っ張った。

「何その目? 何か文句あるの?」
「あ、ある! いつまでもあんたの思い通りになんかさせない! いつか、いつか闇の陣営に入って復讐してやる!!」
「へぇ? いつになく反抗的だね。でもさ、君、僕にそんな口聞いてタダで済むとでも思ってるの?」
「こ、こわくない! あんたなんか!」
「あーあ。なまえって本当に学ばないなぁ。まあそこが可愛いんだけどね」
「な、なに言って、ひぃ、やめ、あ、んぁあっ!」
「そんな大きい声、出しちゃ駄目でしょう」

 何をするのかと思えば、男はいきなりわたしの腰を鷲掴んで反り立ったものを一気に睦の中へ突っ込んだ。硬くて太いそれが中を抉り、敏感な箇所に何度も何度も擦りつけられる。たまらず声を上げれば愉しそうなヤツの声が降ってきた。

「ほとんど慣らしてなかったのになまえの中、ぐちゅぐちゅだね。どんどん蜜が溢れてくるよ。気持ちいいの?」
「きも、ち、くなんか、」
「はあ、本当に素直じゃない。じゃあ僕だけ愉しんじゃお」

 がつんがつんと荒々しく質量のあるそれを抜き差しされ、遠慮なく睦内を蹂躙される。先程までわたしの敏感な場所ばかりを攻めていたのに、今は意図的に違う場所を攻めてくる。物足りず無意識にもじもじと太腿を動かせば、それはもう男の勝ちだった。

「どうしたのなまえ、腰が浮いてるよ。こんなことやめて欲しいんじゃなかったの?」

 くつくつと喉で笑う彼は本当に意地悪だ。悔しくてキッとまた睨み返せば、乳首をぎゅうっとつねられる。嬌声を上げるわたしに男の笑みが濃くなった。

「まったく、今日は意地っ張りだね? まぁ、たまにはそういうなまえもいいけど。征服のし甲斐があって」
「ん、やめ、くるし、からぁ!」
「僕のが中を満たしているからね」
「も、やめ、」
「だーめ。やめてあげない。それになまえもいつもより締まりがいいよ。本当は気に入ったんでしょ? 緊縛プレイ」

 そう言って彼はまた律動を開始した。今度はひたすら善い所ばかりを攻め立てられ、もう声を抑えることなど出来なくなった。自分で聞いてても恥ずかしくなるぐらいわたしはあんあん啼かされ、すべてはヤツの意のままである。結局のところこの男に勝てはしないのだ。それもそう、彼は生き残った男の子で、選ばれし者で、英雄なのだから。わたしのような凡人が彼に楯突こうとしたのがそもそもの間違いなのである。もう諦めるしかないのだろう。諦めて、この変態の遊びに付き合わなければならないのだ。逃げ場など何処にもない。わたしの味方は、この魔法界には一人も居ない。自分でも馬鹿だと思うが、そう仕向けられていたことに気付けなかった。彼は策略家だ。人をどうすれば掌握できるのかを知っている。独裁者であり、嘘つきだ。そうしていつの間にか、強者と弱者の立ち場が逆転した。マグル界ではわたしが絶対的強者であった。わたしがご主人様でこの男が下僕であった。わたしが支配する側で男が支配される側であった。それなのに、わたしはいつの間にか、男の手の平の上にいたのだ。

「ほらなまえ、孕ましてあげるよ。それでずっと、僕だけのなまえでいるんだ」

 そう言って、一際強く中を抉られかと思えば、彼はわたしの中へ熱を吐き出した。

「ああ、なんて可愛いんだろう。僕のカナリア」

 愛おしそうに髪を撫でられる。男はたまにわたしのことをカナリアと呼ぶ。籠の中の鳥のように、まるで大事なペットのように、わたしが男の物であるかのように。その度にわたしはいつか必ず闇の陣営に入ってやるのだと固く決心する。そうしてヤツの胸に剣を突き刺し、命を奪う姿を想像する。それだけが今のわたしにできる唯一の復讐なのだ。
 だが、そんなことは所詮、夢物語にしか過ぎないのだろう。わたしなんかがこの男に敵わないことは、そして逃げられないことは、身を以て知っている。

「なまえ?」

 反応を示さないわたしを不思議そうに覗き込む幼なじみの顔を見て、すっと息を飲み込んだ。

「もう……終わり。わたしの人生は終わった」
「何を言ってるんだい? 終わっただなんて、まだ僕たちは始まったばかりだよ」
「始まったばかり?」
「やっと君が手に入ったんだ。やっと僕のものになった。長かったなぁ……ずっとずっと、ずーーーっと、いつか手に入れてやるって思ってた」
「なんのこと…?」
「分からない? マグル界に居た時から、初めて出会った時から、僕は君が欲しくてたまらなかったんだよ」
「何それ……わたしあんたのこと虐めてたよね? もやしメガネって呼んでダドリーと一緒にサンドバッグにだってした」
「正直ダドリーと一緒に居るのは気に入らなかったけど、でも虐めている間なまえは僕のことだけを考えていたでしょう? アレはたまらなく気持ち良かったよ」

 そう言って男は挿入したままの性器を押し付けるように腰を動かした。

「んっ、」
「ははっ。あんなに虐めてたのに、今は僕のペニスを突っ込まれて悦んでる。かわいいなぁ」
「何言って、」
「君がなんて言おうが、手放す気はないんだ。いい加減諦めなよ」

 男の言っていることが真実なのだと分かり、背筋にゾッと悪寒が走る。わたしが闇の陣営に入ろうが何処かに逃げようが、こいつはきっと地の果てまで追い掛けてくるだろう。そして籠の中に閉じ込めてそこから一生出さない気なのだ。恐ろしくて恐ろしくてたまらない。この先、本当に孕まされてしまうかもしれない。そう思うと無意識に流れ出た涙が頬を濡らした。

「あは。泣いちゃった。綺麗だよなまえ」

 そう言いながら、ベロリと頬を舐められる。

「君の涙も、心も、体も、すべてがすべて僕のものだ」
「なん、で……だって、だってあんたが好きなのは、チョウでしょ……?」
「あれ? もしかして妬いた? 嫉妬してたの?」

 馬鹿だなぁ〜と心底おかしそうに笑う、ハリー・ポッター。選ばれし者と呼ばれる彼は、自分の立ち位置というものをちゃんと理解していた。英雄は群衆の理想通りに振る舞わなければならないのだ。そして群衆は、優秀な者には同じく優秀な者を宛てがいたい生き物なのだ。

「あんなのは格好だけだよ。本当の僕を知っているのは君だけでいい」

 今度は優しく微笑んだかと思えば男はそっとわたしの耳元に唇を寄せ、呟いた。

「これまでも、これから先も、ずっとそばにいてね」

 笑ってよ。かわいい僕のカナリア。


210117
完璧に闇の陣営側ですね

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