私が九番目の女だと知ったのは意外にも彼の口からだった。あっけらかんとお前の他に八人の女と関係を持っていると言った彼に私は文字通り空いた口が塞がらなかった。

「なんじゃそりゃふざけんじゃねえなんでこの私がお前の使い捨てになんざならなきゃなんねんだよ! そんなもんこっちから願い下げじゃドアホ! この変態野郎がオナニーでもセックスでもしすぎて精根尽き果ててインポにでもなりやがれってんだボケナス! だいたいお前の性癖気持ちわりーんだよなんだよ緊縛プレイって! 目隠しと手錠持ってきた時は本当にどうしてくれようかと思ったわ。それにヤってるとき制服のネクタイとスカートと靴下だけは着用ってなんなんだよキモすぎ! 裸エプロンならぬ裸ネクタイってマニアックすぎるわ何でシャツは抜いでんのにネクタイしてんのかマジ理解できないんだけど! あんたが何に興奮を覚えるのかなんて知らないしもうどーでもいいけど取り敢えずてめえは一回女に刺されて死んでこい、この勃起不全野郎!!」

 文字通り、空いた口は塞がらず、声を大にして罵ってやりました。ええ罵ってやりましたとも。

「え、シリウスってインポ……てか、勃起不全なの?」
「今はそこじゃねえだろジェームズゥウ!!」

 ポッターが論点のズレたことを言い出したと同時に私はその場を逃げ出した。二人が背後でなにか叫んでいた気がするけれど、言いたいことだけ言ってとんずらこいてきた今の私に彼等はもう何も、何ひとつとして関係がない。二度と会いたくもない。……でも、なぜだろう。言うだけ言ってすっきりした筈なのに、何故かとっかかりを持つ自分の心臓辺りをギュッと握り締めた。ズキン、ズキン、と痛みはじめた正体不明のそれに私はひたすら中庭を駆け抜けることしか出来ず。なんの嫌味か私の心とは正反対に今日の空は青い。イギリスの空は濁った灰色が特徴のくせに本日は見事な快晴。止めどなく溢れ出す涙のせいで前なんか見えないけど、声を上げながら太陽の下をなり振り構わず走っているとなんだか生きてるって感じがした。

「彼女追い掛けなくていいの? なにか勘違いしてたみたいだけど」
「だよな……やばいよな」
「そりゃそうでしょ。おまえ一人だけを愛してしまったから他の女は全員切る、って伝えにきたのにまさかの勘違い逆パターンて」
「うっ……」
「だから僕みたいにはじめからリリー一筋でやってればこんな事にはならなかったのに君は本当に愚かだねえ」
「うるせえ! し、仕方ねえだろ! 大体お前が告白すればなんて言うからっ」
「うわ、信じられない僕のせいにしちゃったよこの人。いいからもう取り敢えず追いかけなよ。君のウジウジしてる所はさんざん見飽きたんだ、たまには笑ってる所が見たいもんだね」
「ジェームズ……」
「だからほら! 走れ! あの子の元へ走るんだシリウス!」
「おう!」

 太陽が眩しい。空が青い。きっとあの子には今日のような晴れ晴れとした日が似合う。だから伝えないと、俺の隣りで笑っていてくれないか、って。あの子が去っていった中庭を駆け抜ける。快晴の空が馬鹿だなとでも言うように笑っている気がした。なんだろう、生きてるって感じがする。

「本当に、我が親友は青春真っ只中だねえ」


走れ! 走れ! 走れ! 少年少女!

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