例えば猫が僕に恋をしたなら僕は猫をすきになるとおもいますか

 告白をした時、その返事は疑問となって返ってきた。例えば猫が? 僕に? 恋? 僕は、すきに? その意味を理解するのに数秒、理解してから呆気に取られること数秒、そして目の前にいる好きだった人に跳び蹴りを食らわせた数秒後、私の恋は儚く散った。

「……その筈だったのに」
「何がですか?」
「いや何でもないよレギュラス。昔の話さ」

 不思議そうな顔をしてこちらを伺ってくるレギュラスに溜め息が出そうになるのを飲み込んで、私は無理矢理笑顔を作る。するとレギュラスはその綺麗な顔を不満げに歪めて拗ねたように唇を尖らせた。普段の彼とは掛け離れたその表情に自然と気持ちが浮上していくのが分かる。愛しい、とは正にこの感情のことを言うのだと最近私は気付いた。

「また僕の知らない昔の話、ですか?」
「違うよ」
「じゃあ僕と出会ってからの話?」
「うん」
「本当に?」
「うん、告白した時のこと思い出してたの」

 そう言うとレギュラスは思いっきり顔を歪めておまけとばかりに深い溜め息を吐いた。そんな酷い表情をしなくても……と思うのだけど、彼がそんな顔になってしまうのも無理はない。あれはお互いに苦い事件だった。

「またあの時のことですか」
「レギュラスってば本当に酷いこと言ったよね」
「あなたは僕に飛び蹴りを食らわせましたよね」
「はははは忘れてください」

 そう言われてしまったら仕方ない。お互い様ということで、と笑うとレギュラスはまた溜め息を吐いた。今日はよく溜め息を吐くなあ幸せがどんどん逃げてっちゃうよ? と言うと、今度は笑って「あなたと一緒なら幸せなので問題ないです」なんて言うもんだから私はもう黙るしかなかった。レギュラスはずるいなあ。そんなこと言われたら私が何も言い返せないことを知ってるんだ。

「ねぇレギュラス」
「なんですか」
「……あなたは猫に恋をしたの?」

 悔し紛れにそう質問をして隣に座る彼の手をぎゅっと握る。レギュラスはきょとんとした表情を作ると、すぐに笑って私の手を優しく握り返してくれた。

「どうやらそのようですね」

例えば猫が僕に恋をしたなら僕は猫をすきになるとおもいます


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