唐突に訪れた別れは予期できないものではなかった。互いに死地へと繰り出した末どちらかが、または双方がその命の灯を掻き消されるかもしれないなんて、分かりきったことだった。そうして戦地へ赴く二人の後ろ姿を誰が見ていただろうか。握る手の平の中には空気しかつまっていなかったのに。
「や、久しぶりだね」
「うん」
最後に会った時とまるで変わらずに彼はそこに居た。大イカの住む湖の淵に立つその人に私は足早に駆け寄り、そっと手を握る。温かい感触がしてみるみると心が満たされていくのが分かった。彼は温かい。私の冷たい手にちょうど良く馴染むその体温に自分でも自然と笑みがこぼれるのが分かった。
「こうやって歩くのはいつぶりかなあ」
「一ヶ月くらい?」
手を握り合ったままゆっくりと湖の淵を歩く。大イカはもう起きているだろうか?まだ朝早い。彼の質問に疑問符をつけて返しながら、なんとなくまだ湖の奥底で寝ているんだろうなとぼんやりと考えた。
「はは、なまえったら一ヶ月も我慢できなかったんだ」
「うん、ごめん」
「まったくしょうがないなあ。皆悲しんでるよ?」
「…ごめん」
呆れたように、嬉しそうに、でも、とても悲しそうに笑う彼に謝った。けれど私は彼に会いにやって来たことに後悔なんてこれっぽっちもしていない。だって、会えなかった一ヶ月の方が私にはよっぽど辛かった。これがただの我が儘だってことは分かってる。どれだけ家族や友達、愛する人たちを傷付けたのかも充分に理解している。分かってる、分かってるのよ。でも、それでも私は――
「ねぇ、フレッド」
笑わせないでよ。貴方のいない世界で私が生きていけるとでも思ったの?
101224
フレッドが死んでから一ヶ月後のはなしtitle by bamsen