僅かに残る暁の空。明ける夜と共に、迎える朝と共に、この世は救われたのだ。ある、勇敢なる人々の手によって。

「誰が救ったって?」
「俺さ!」
「本当に?ピピンが?嘘?冗談でしょ?」

 十三ヶ月ぶりに返って来たかと思えばこれ。皆が寝静まった深夜に私の家にいきなり訪れて(迷惑極まりない)何の用かと思ったら、行方不明になってから十三ヵ月間の出来事を話された。冥王サウロンだとかオークだとか指輪だとかそんなもん、どうだっていい!私は今、かつてないほど怒ってるんだから。

「ホントだって!まあ正確には救った者の一人だけど!」

 メリーに聞いたって良いぜ!と意気揚々と話すピピン。何こいつ殴っていい?こっちはこの十三ヶ月、どんなに心配したと思ってるんだ。いきなり私の前から居なくなって、誰に聞いても行方は知れなくて、メリーもフロドもサムだって行方不明で、私がどんなに、どんなに!いつもおちゃらけてて、いつも私を笑わせてくれて、いつも大好きな唄を歌ってくれた。ピピンが居ない日々が私にとってどんなに辛くて悲しくて虚しい日々だったか…貴方には分からないでしょうね!

「ピピンのばか!」
「な、なんだよ急に」
「急にじゃないし!ずっと怒ってたもんっ」
「…え…なんで?」

 あ、ああありえない!なんでってそんなことも分からないの!?好きな人がいきなり居なくなっちゃったんだよ!十三ヶ月間!しかも音信不通で!ああもう、今が夜じゃなかったら怒鳴りつけてやりたいわホント信じられない。

「なあ、何でそんなに怒ってるんだい?」
「何でって、だからピピンが好きだったからいきなり居な…く……っ!」

 あ、あれ?私もしかして言っちゃった?もしかしてもしかしたら、告白しちゃった…?どどどどうしよう!告うつもりなんてなかったのに!ピピンがあまりにも馬鹿すぎて言っちゃったじゃないか!
 ああ、心なしかピピンがニヤニヤと嫌な笑みを浮かべているのが分かる。腹立つ。殴りたい。ちくしょう恥ずかしい。

「へぇ〜僕のこと好きだったんだ?」
「うっさい黙れ」
「なんだよ、恥ずかしがることないじゃないか」
「黙んないと鼻の骨へし折るわよ」
「ちょっとちょっと!照れ隠しもそんなんじゃ可愛くないよ」
「アンタぶっ殺されたいの?」

 こっちは自分のおっちょこちょい加減に泣きそうなほど恥ずかしいんだよ。口の減らないガキ…じゃなくて、口の減らない馬鹿はほっといてビールでも飲もうかな。もちろん、大ジョッキで。そうすれば少しは顔の赤みも隠れるでしょうよ。あーもう、恥ずかしいっ!

はにかんだ、小さな恋模様

(顔が赤いよ?)(ビ、ビールだもん!)

080814

×