stsk 短編 | ナノ






ミラは僕のこころ







失敗した、と思った。






人間いつかは喧嘩をする。というか、人生の中で喧嘩をする回数なんて数え切れないほどあるのだ。


ただ、僕が今失敗したなと感じたのは透き通るような瞳に分厚い膜を張って教室を出て行った彼女のことだ。

僕が後悔しながらため息を吐くと、周りのクラスメイト達が苦笑いをしながらも僕を見つめていた。



「ぬー…、
梓、いいのか?走って行っちゃったぞ?」


僕の隣で心底彼女のことを心配している自分の従兄弟に、いいよ、ほっとけば。と強がりなセリフを吐いた。

そんな僕の様子に従兄弟の翼はため息を吐きだし、呆れたように僕を見た。

そりゃあ僕だって心配してる。だって世界で一人だけの自分の恋人を泣かせてしまったのだ。
ただ僕にも変なプライドがあったりして、そのせいで僕は彼女を追いかけない。



「…さっきのは流石に梓が悪かったぞ」


「…わかってるよ」



喧嘩の原因は彼女が宇宙科の教室に乗り込んできて、明日何処かへ出掛けようと誘ってきたからだった。

明日はちょうど部活が無いけれど僕は元から明日は自主練に励もうと思っていた。そういえば夜久先輩も自主練をするみたいだったなと思い返しながら説明すれば、彼女は、どうしてもダメなの?と聞いてくる。


こんなに我が儘を言う彼女は初めてだと感じながらも、来週に予定されている、弓道が盛んな学校との練習試合前に自主練をしたいのだと僕は言った。

腑に落ちないような彼女の反応に少し怒りが見え隠れしている。
怒り、と言ってもドロドロとしたものではなく、サラッとしたものだったけれど僕はフツフツと広がるそれに大人しく身を委ねた。


それを間近で見ていた翼は何か言いたそうだったが、僕には何を言おうとしているのか一切わからない。



諦めの悪い彼女に少しくらい厳しい言葉を投げておこう、と思い、「とにかく、その日は大事なんだよ」と強い口調で言えば彼女は泣きそうな、それでいてショックをうけたような顔で教室を出て行った。



もう一度言おう。
僕は失敗した、と思った。

あの彼女を泣かせるような強い言い方で言ってしまったのだ。



「梓、勘違いしてるぞ」


「は?」


意味のわからない従兄弟の発言に首を傾げると、大きなため息を吐かれた。

それに若干、不愉快な気持ちになりつつも次の言葉を待つ。


「明日って何の日か梓はわかるか?」


「明日?
何かあったっけ?」



そんな僕に投げられた言葉は僕の思考を止まらせるには十分だった。














「明日は
梓たちが付き合ってちょうど一年目の日だよ」














梓は最近凄く忙しそうだったから覚えてないのもわかるけどさ、と呟かれた言葉も右から左だ。



失敗した、と思った。


でもそれは口調とかじゃなくて。



僕は最近、忙しい中でも彼女に少しでも会おうと努力していたか?

いや、会いたいと思うことはあっても、この忙しさで彼女に会いに行こうというところまでは至らなかった。




気がつけば勝手に体が動いていて、彼女の名前を必死に繰り返し呼びながら長い廊下を走る僕が居た。

彼女の名前を呼んでいる最中に「ごめん」とか「どこに居るの」だとかが紛れ込む。





今思うことは、
彼女を見つけたら抱きしめてキスをしようということだ。


それも、とびっきり

甘いやつを。






ミラは僕のこころ

(僕のこころは)
(君のおかげで輝きを変える)



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夢主ちゃん視点の話もつくろうとして挫折したお話です。

夢主ちゃんの会話シーンが少ないですね(゚-゚;