stsk 短編 | ナノ






君がいつもと同じ、笑うから



伝わんないなぁってがっくりきて、届かないなぁって悲しくなる。
こんなに近くて、でも、遠くて。
こんなに好きなのに、大好きなのに。


「返信、来ないな・・」


昨日送った『明日帰る?』というメール画面を表示し続けているスマートフォンにタンタンとちゃんと押しちゃわない程度に画面をリズム良く叩く。


私と木ノ瀬梓は家がお隣さん同士の幼馴染。
高校2年生の冬の今、田舎の山の中にある星月学園という学校に入学した彼は学園の寮に今は住んでいる。今日はそんな彼の誕生日であるのだが、当の本人と言えば弓道と部活の皆さん、そして星にしか興味が無いらしく、お正月やお盆は帰ってくるものの誕生日には去年も帰って来なかった。梓の両親や私の両親は男の子だからね、と笑って話すけれど私には毎年そうはいかない理由があるのだ。


「今年こそ言いたいんだけどなぁ」



ーーー好きって



ごろん、と自室のベッドの上でスマフォを握りしめながら寝返る。

そう、今年こそ、今年こそ告白したかったのだ。
この、何年も積み重ねてきた彼への想いを。彼に。

ただ、去年もその前もその前もその前もずーーーっと、タイミングが悪いのか何なのか、言えたことがない。

成功する試しなんてないけれど、それでも一度は言わなくちゃ自分のこの長年抱えてきた想いに失礼だと自分で思うのだ。

でも


「返信こないってことはそれだけ忙しいってことだよなぁ・・」


確かに星月学園にはクリスマスパーティのような行事があるとかなんとか聞いたことがある。生徒会が中心となってやるとも聞いたことあるけど、一般生徒だってやることはきっとあるはずだ。
それに彼には部活だってある。来年は3年生だし、気合を入れて取り組んでいかなければ駄目だろうし・・ああ、駄目だ、悪い方向にしか考えれなくなってきてる。あ、いや、これでもポジティブ思考なんだろうか。そうであってほしい。


「・・・ばぁか」


静かな部屋で一人、彼への告白と共に贈る筈だった彼の星座、射手座がモチーフとなったキーホルダーを握りしめ、毎年のように泪を流す。弱虫で行動力が無くて。そんなこと自分でもわかってるし、彼にばかなんて言う理由もないけれど。
でも、また会った時に笑って渡せれないから。
お願い、もう少しだけ。


「あずさのばか!!むっむかしっから、ひっく、かっこよくってもてて、やさしくて、ぐすっ、ちゃんとひとをみててなやんでたらたすけてくれてっなのにいつもじぶんのことはどうでもいいみたいにおもってて、やさしくてかっこよくてもてて、なのにばかっばかばかばか・・・!!!!こんな時ぐらい、

祝わせてよ・・好きって言わせてよ・・!!!」



「・・言えばいいよ」


「え・・」



突然の声に振り返れば。



「あずさ・・・?」


ただいま、と苦笑しながら私に笑いかける梓に私の涙腺はまるで逆さまにしたビンの蓋を開けたときのように一気に溢れ出した。
なんで梓がいるのとか、いつの間に帰ってきていつの間に部屋に来たのとか、

もう、今はずっと望んでいた風景に出会えたことしか頭に無くて。


「おっおかっおがえりぃぃいいいいい」

「うわっ・・もう、仮にも女なんだから・・ほら、こっち向きな、拭いてあげる」

「だっだいじょうぶ!!だいじょうぶだから!!!!!」


梓の手にあるティッシュでぐしぐしと拭く。
梓は呆れ気味だけどいいんだ。なんだか今は、満たされた気分だから。


「・・さっきの話さー」

「ん?さっき?」

「・・・・・・・まさかもう忘れたの・・?」


信じらんない、とばかりに私を見る梓。
え、ちょ、ま、さっき・・・?


「告白」

「・・・・・聞いてた・・?」

「うん」

「ああああああああ・・・・」


どうでもよくありませんでした、前言撤回、どうでもよくない・・!!!!!!
慌てだす私を見ながら梓はため息を一つ。



そして涙目の私にこう魔法をかけたの。






僕も、君が好き



(うわあああああああ!!!)

(え、ちょっ、なんで泣く!!??)



2013年の木ノ瀬誕記念の小説です。
梓くん、おめでとう!!