「お嬢様!」
下から聞こえてくる声に私は耳を塞いだ。
木の枝に座っているせいで地面が遠くて怖いけれど、今の私には他にこの怖さより比べものにならない程、大きなコワイモノがあった。
「お嬢様、危ないですよ!降りて下さい!」
「ほって置いてよ、梓」
私がそう言えば顔を歪めて地面を見はじめる梓。ああ、そんな顔、大切な人にさせたかったわけじゃなかったのに。私は不器用だ。
「…約束、守れなくてごめんなさい」
「嫌よ、そんな言葉、今更…!!」
視線を地面から上げた彼の顔も見ずに私は叫んだ。だって、仕方ないじゃない。約束したじゃない。貴方が私専属の執事となったあの日、私がこのバラが至る所に咲く広い庭の真ん中にある大きな屋敷の持ち主――名字家の娘だと言うことに嘆いていたあの日、泣いていた私を見て言ったわ。貴方は。
――僕が、ずっとお嬢様をお守りしますよ。この家からも。“大企業の社長の娘”という身分からも。
なのに。
なのに、彼は今日、この屋敷を出ていく。つまり、執事ではないのだ。あの約束は、今日をもって終了なのだ。私はまた味方が居ない世界を一人でブラブラと歩いて行かなければならない。
「わかっているつもりなのよ、頭がキレる貴方にだって私を身分から引きはがすことなんて出来ないってことぐらい…でも、でも…」
「…お嬢様、」
「でも、望んでいた!期待してた!」
望むくらいいいでしょう?
そんな事を考えだしてから、私は無意識のうちに、もしこの窮屈な狭い世界から飛び出せれたら何処に行こうか、何を食べようか、誰と出会おうか…とにかく沢山考えてしまっていた。わかってる。これはただ私が馬鹿で夢をみすぎたからだ。
私は望みを無くした。
「…お嬢様は誤解されております」
「……え?」
「私は執事を辞め、自分の企業を持つことにしたんです」
「!」
「これが成功したあかつきには貴女をこの地獄のようなトコロから連れ去ってみせます。
ね、名前…」
「っ…貴方、今…」
「だって僕らはもうお嬢様と執事の関係じゃない。ただの人と人だよ」
視界が緩む。
頬を温かいものがつたった。
梓が手を広げ、私は彼の胸目掛けて跳んだ。
キュウ、と。きつく抱きしめられる。
ああ、ああ、
待ってるわ。
いつまでだって、待ってる。
またこうして抱きしめてもらえるまで。
∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴
「××ならば。」様に提出させてもらいました!
うおお…駄文(´・ω・`)