「あ、雨だ…」
ふと、
隣で名前先輩が呟いた。確かに、部活中の僕達が狙っていた的の前には何粒にもわたる雨が地面に降り注いでいた。
どうやら、そんな先輩の呟きには僕以外の人は誰も気づいていなかったようで、皆、後片付けをせっせとしていた。僕しか気づけなかった、というところに優越感を抱く。
好きな人のことに関しては僕でさえ、こんなに緩くなってしまうのだ。
「名前先輩!」
「あれ、梓くん」
部活も終わり、部員達が色とりどりな傘をさして帰っていくなか、僕は先輩に声をかけた。
僕から声をかけられて立ち止まった彼女は、僕の大好きな笑顔を見せ、どうしたの?と言った。
「さっき、雨だって言ってましたよね。そのときの先輩の瞳が優しかったので、気になって」
「…え、嘘!?」
「ふふ、本当です。それで、どうしてですか?」
「……梓くん。よくこんな、つまんない話が気になるね」
「僕、何でも知りたいし、わかりたい性格なんですよ」
「いや、それは違う気が…。まあ、いいか」
先輩はふう、と息を吐き出したあと、空を見上げながら「催涙雨って知ってる?」と聞いてきた。
「まあ、少しだけですけど…。あれですよね、七夕の日に降る雨は彦星と織り姫が流す涙が雨になったものだ、みたいな」
「それで充分。でね、その話を思い出して、ああ、この雨は二人の出会えたことで生まれた嬉し涙なのかなって思ったら何だか優しい気持ちになってきてね」
「ね、つまんない話」と苦笑する先輩に、凄くいい話です。と言ったら、彼女は元々丸い瞳を更に丸くさせ驚いたあと、ありがとう、と笑った。その笑顔にきゅんと胸が鳴って僕は彼女の笑顔に見惚れる。
「……名前先輩」
「んー?」
「先輩も、好きな人とずっと離れていて、久しぶりに会えたとしたら…涙を、流しますか」
「……そうだね、大切な…人だもん」
先輩が仰いだ空を見上げたら、もう雨は止み、星が瞬いていた。
織り姫と彦星はきっと今頃泣き止んで、二人で天の川の中、抱き合っているのだろうか。
ねえ、名前先輩。
僕が貴女の嬉し涙を流せれる位置の男になれますように。
願います。
だって今日は、七夕。
天の川を挟んで-----------
私の頭の中では
七夕=催涙雨
と、なってます(^-^;
催涙雨って素敵ですよね。響きもいいし、何より、織り姫と彦星が再会したときの嬉し涙っていうのが素晴らしいと思います(´・ω・`)ノ