華麗なる獣と復讐も兼ねた日常生活 | ナノ


▼ Inside story:珠は杜若とともに(リクエストNo.6)

 


 唐突だが、俺には愛らしい妹がいる。
 歴代最強の守り神と名高い父に似た聡明そうな姿。
 灰青色のまんまるとした目に、まだうまく鼻が利かないのかぴくぴく動いている。
 青々と茂っている芝生の上をゴロゴロと寝転がりながら、気持ちよさそうに目を細めている。
 まったく器用で、人間臭い妹。
 同時期に生まれて、でも別の場所で育った妹との溝は深い。
 だけど俺は妹が可愛い。どうしようもなく可愛い。
 なんでかって?
 だって、すごく馬鹿なんだ。



 俺たち白狼は、それそれは優秀な生き物だ。
 まだ生まれて4か月くらいだが、俺たちには多くの知識が本能としてある。
 自分が何者であるかというのも、父母から教わることもあれば自然と理解していた。
 俺は白狼だ。気高き潔白の白を纏った、この学園を守る神の仔。
 生まれて一週間もすればそんなもの、もうわかる。
 俺たちの母は病弱体で、妹を生んで暫くして静かに息を引き取った。
 その時の俺たちは生まれて数時間。なんとか母から乳をもらうことはできたが、末の妹は貰うことができなかった。
 だからだろうか。母と同じ病弱体となった妹は、俺たちから引き離されて育てられた。
 白狼の兄弟は、伴侶を見つけるまではずっと一緒にいる。
 その絆は人間の兄弟より強く、決して切れることは無い。もしも俺たち兄弟のうち誰かが傷つけられたら、俺たちは全員で報復に行くだろう。
 同じ母から生まれ、血を分け、似たような毛色をしたキョウダイ。
 俺たちはずっと一緒のはずだった。

 母から乳をもらうことなく病弱体となった妹は、母が亡くなって暫くして急激に体温が下がっていった。
 兄弟のなかで一番最初に生まれた俺は、すぐそばにいた妹の様子に気付いて、わけもわからず舐め上げた。
 生まれたての白狼はすぐに自我が芽生え、自分の意志で行動を始める。だけど、今よりはぐっと知識もない。
 だからわけもわからず、冷たくなっていく妹をただただ舐めていた。
 俺がなめていると、近くにいた他の兄弟たちも気づいて妹を舐め始める。
 だけど妹の体温はなかなか上がらなくて、困った俺たちは必死で父を呼ぶ。
 幼いながらに末の妹が危ないことを本能で知っていたのかもしれない。半分泣きながら必死に父を呼んで、やってきた父に妹を見せる。
 すると父は、濃い灰青色の目を大きく見開いて、妹をその口に咥えた。
 それからは一度だけ俺たちを見ると、力強く大地を蹴って駆け抜けていった。
 俺たちはわけがわからず、木の下に身体を寄せ合いながら父と妹の帰りを待つ。
 少し熱気のこもった風は生ぬるく、兄弟だけで身を寄せ合ったその瞬間は、とても長く感じた。

 次の日の明け方。薄く伸びるような赤を纏いながら、優し気に顔を出す太陽がまぶしい空。
 気づけば眠っていた俺たちが目覚めたとき、そこには父の姿しかなかった。
 それ以来、生後約3か月を迎えるまで妹と会うことはなかった。


 俺たちが妹と会ったのは、あと少しで8月になるだろう蒸し暑い夏の1日。
 父の口に咥えられてやってきた妹は、生まれた頃と違って健やかな寝顔だった。


 その後妹が目を覚ましたのは、その日の午後だった。
 妹の傍を陣取っていた父を目にした妹は、奇妙な雄叫びをあげて気絶した。
 これには俺たちも焦って父を責めたてたが、肝心の父は「我(わたし)の何がいけなかったんだ……」と泣き崩れていた。
 まったく、妹に関しては役に立たない父だ、と心で思いつつも、父を兄弟たちに任せて妹を咥えた。
 騒がしい兄弟たちの傍に置いたままでいたら、妹が目覚めた際にまた気絶すると思ったからだ。
 あまり日の光が当たらない涼やかな場所に行くと、木の下に妹を横たわらせた。
 大きな木の下で健やかに眠る妹の傍ら、小さな紫の花が妹をくすぐる。
 ぺろりとひと舐めすると、妹が身動ぎした。
 ぷす、となんとも気の抜けた音は鼻からだされたようだ。半開きにされた口からは、ちらりと赤い舌が見える。
 顔を近づけると、うっすらと目が開いているのが見えた。うす開きで、少し白い部分が確認できる。
 とんでもないほどまぬ、ごほん、可愛らしい顔だ。
 その、ちょっとだけ、笑いがこみあげてこなくもない、けどな。
 さわさわと揺れる葉の音にまぎれて、掠れたような鳴き声が少しだけ響いた。



「わぅ」
「ガゥッ」

 目覚めた妹は、ぱっちりと目を開けて、そして控えめに鳴いた。
 それでも白狼か、と言いたくなるほど弱弱しく、鳴きなれていない感じがした。
 生まれてから3か月近くたつというのに、なんでこんなにも鳴きなれていなさそうなのか。
 まるで今日初めて鳴き声を出したかのような、そんな鳴き声は、どうしようもなく俺を不安にさせた。
 唖然としたような表情をする、まあ傍から見れば口を開けているだけの妹を、運んだ時のように軽く舐め上げる。
 たったのひと舐めでコロンと芝生に転がる。やっぱり口を大きく開けたままで、掠れたような鳴き声は、今度は葉が隠してくれることはなかった。


 最初の頃の妹は、まともに歩くことすらできなかった。
 1歩でも歩くと足がもつれて転び、父が持ってきた餌もとりに行けない状態だ。
 転んでは立ち上がって、歩いては転んで、空腹なのか腹を鳴らしては切なげに俯いた。
 そんな妹のために、父が持ってきた果物をかみ砕いては、口を開けた妹に分け与える。
 妹はまだ上手く歩けないから、自分で餌をとることができないのだ。妹の前に生まれた末の弟でさえ、野を駆け地を蹴れるというのに。
 切なげに俯いた妹のもとまで駆けていく。口には兄弟たちからもぎ取った果物が1つ、咥えられていた。


 ある時から、妹は俺から餌を食べることは無くなった。
 というのも、別に妹が歩けるようになって自分で餌をとれるようになったわけではない。
 妹は歩けるようにはなったが、走ることはできないし、顎の力も歯もまだそんなにとがっていないから上手く噛めないのだ。
 そんな妹がどうやったら餌を食べることができるのだろうか。
 答えは、人間にある。
 あの時生まれたばかりの妹が連れていかれたのは、とある人間のところだったのだ。
 父曰くパートナーだというその男は、この敷地内、学園の長というヤツだ。
 俺たち白狼に父という長がいるように、人間界の集団社会とやらにも長というのがいるというのだ。
 その長、学園長が妹を預かっていたらしい。
 学園長は妹を「うた」と名付けて、手元で大事に育ててくれていたらしいのだ。
 その間妹が目覚めることは無かったが、息をしているだけの妹が死ななかったのは、ひとえに学園長のおかげだと父は言う。
 俺たち兄弟もその件に関しては深く感謝しているし、俺たちが生後いくばくかの時にもよく訪ねていたから知っている。
 その学園長が、俺の役割であった妹への餌付けを、代わりにしているのだ。
 それも妹に与えているのは果物ではなく、俺たち白狼の元であるイヌ用のドッグフードとやら。
 人間でいう一口サイズのブロックフードを、皿の半分以上に注いで妹の前に差し出す。
 差し出された妹は、初めて見る食物だからか、警戒しつつ頭を皿に近寄せて少しずつ食べ始めていった。
 やがて安全なものだとわかったのか、勢いよく食べ進める。
 口いっぱいに頬張る姿は、父に教えてもらったハムスターの食べ方によく似ていた。


 それから妹は、俺からではなく学園長から餌をもらうようになった。
 それは7月の終わりのことで、決まった時刻に皿を持ってくる学園長を待つ妹は、無意識だろうか尾を振っている。
 妹のそんな様子を微笑まし気に思いながら、どこか面白くないような気持ちになる。
 兄として妹のためにしていたことが終わりになって、それが寂しいのだろうか。
 よくわからない気持ちは父に教わったことはないし、知る手段も今は無い。
 もう少し大きくなって、父のようにパートナーを見つけたら、そのパートナーが教えてくれるだろうか。
 大きな木の実を食べながら妹を見る。
 学園長の愚痴を聞きながら、時折顔をあげては頷くような動作を繰り返しながら、皿のなかの餌を食べていく。
 勢いはいいがうまく食べることできないようで、時々咳きこんでいる。
 あ、皿のなかに頭を突っ込んだ。
 我が妹ながら、やはりどこか、抜けている。




 8月上旬。
 我が妹は本日も元気だ。
 7月の終わりよりは知識も増え、多くの事柄を知ることができた今月初めは、重大な出来事があった。
 なんと、妹が走れるようになったのだ!
 父より妹のお守りを頼まれていた俺は、影ながら妹を観察している。
 妹は見られるのが苦手、というか、俺たちの視線に慣れていないようで、俺たちに見られるのが苦手なようだ。
 なので俺は、そんな妹の負担にならないようにこうして影ながら妹の観察を続けているわけだ。
 俺のやることは妹の観察だけではない。妹を守ることも、俺の役目だ。

 俺の妹は可愛い。
 父に似た真白な毛並み。大きな灰青色の目。少しだけ内巻き気味の毛並みの触り心地は滑らかで、雄を引き寄せるフェロモンはこの年頃の雌にしては膨大だ。
 さすが父譲り、とでも言おうか。歩くのも走るのも苦手だが、そこも愛嬌ととらえれば言うことは無い。
 俺たち白狼は、徹底した雌至上主義を貫いている。
 ただでさえ少ない種族で、そのうち雌は何匹いるか、人間のように数えられないほど多い、というわけではない。
 雌の産まれない伴侶なんてザラで、雌が生まれた伴侶はその雌の伴侶選びで忙しい。
 だけど雌が生れれば幸せなことが多い。それは、雌が可愛いという面もあるが、なにより華やかだ。
 雄ばかりのむさ苦しい群れなど、俺でも嫌だ。
 我が妹が生れてくれて、神に感謝する気持ちが湧いた。ちょっと抜けているところもあるが、それがまた可愛いのだ。
 妹万歳、というものだ。



「弦(ゆづる)」

 凛とした声が聴こえた。
 人間でいう良い声とやらだが、俺たち白狼にとってはあまり興味のないものが多いだろう。
 その声に反応して、妹を見つめる視線を緩める。
 声の主に視線を動かして、太陽の光で淡く縁取っているその主を見つめた。

「ワンッ」

 深緑がかかった黒い毛並みをなびかせながら、同色の睫毛が縁取る瞳を俺に向ける。
 綺麗な緑色のそれは、他の白狼はおろか人間にも見たことのない不思議な色合いだ。
 大きく鳴いた俺に驚きもせず、白い毛並みを撫で上げた。

「今日は機嫌がいいな」

 わかるか? と内心で問いかけると、ヤツは強く頷いた。
 優秀な人間は違うな、と思うと、ヤツの足元にすり寄る。ヤツは擽ったそうにしながら、俺の行動を拒むことは無かった。
 ヤツは、演之助(えんのすけ)は俺の毛並みを撫で続けながら、オレンジ色の袋を差し出した。
 演之助は俺のパートナーだ。父と学園長のように、長く続くパートナーになると思う。
 そんな演之助は優秀な人間で、学校という社会では最上位にあたる人間だという。さらには美形でもあるらしい。
 人間の美醜はよくわからないが、俺たち白狼から見ても美しい個体なのではないかと思う。
 差し出された袋に鼻を近づけながら、演之助の顔を眺めた。

 ――― あ、ドッグフードか

 妹と学園長を見ていてドッグフードに興味を持った俺は、こうして度々演之助にせがんで持ってきてもらっている。
 さまざまな種類のドッグフードを持ってきては、俺の好みのものを探しているようだ。
 俺専用のオレンジ色の皿にドッグフードを盛り付けると、通常のイヌのように座っている俺の前に差し出した。
 ああ、妹の気持ちがわかってくる。これは確かに、美味そうだ。

 妹のように、とは行かないが、白狼としての威厳を保ちつつドッグフードを食べる。
 美味い。そしてこれで果物何個分の栄養が入っているのだからすごい。これを考えた人間はもっとすごい。
 ガリガリと食べながら、心中でこのドッグフードを作った人間を褒め称えた。
 これは、果物よりうまいと思うのも確かだ。果物も確かに美味いが、このガリガリとしたのもうまい。

「……そういえば、弦。明日は用事があって会えない」

 ドッグフードを持ってこれないんだ、と演之助は言う。
 突然の言葉に、俺はドッグフードを食べる口を止めた。
 持ってこれない、だと? これを、妹と俺の好物と化したアレを?
 何故、と問いかける。演之助は申し訳なさそうに眉を潜めた。

「すまん。明日転入生が来るらしくてな? 説明と案内のために残るように言われてるんだ」

 明後日はもっと多く持ってくるから、と俺の頭を撫でて皿を下げた。
 まてまてまて、まだ残ってる! 尾を地面に強く叩き付けて、抗議の合図を送る。
 困った様に皿を置かれ、残ったドッグフードを平らげる。
 そして今度こそ下げられた皿を、未練がましく眺めた。……ああ、妹のことを言えない。
 俺も白狼としてはどうかしている。たぶん、妹を見てきたから、かもしれない。
 去っていった演之助に背を向けて、地面を強く蹴り上げた。



 木々の合間を走り抜けて、妹のもとまであと少し。
 おそらく妹は、また1匹で走る練習でもしているのだろう。
 気づいていないのかもしれないが、練習している場所はいつも同じところ。
 青々と茂った芝生に、そこに聳え立つ大きな木。その木の下に咲いた紫の花を目標に、きっと練習中だ。
 あと少し、と、もう一度強く地面を蹴り上げて、身体を前へと大きく張り上げながら跳ぶ。

「ワンッ」
「きゃぅッ!?」

 木々を抜けた先に、やっぱり妹はいた。
 大きく鳴き声を上げて、俺が来たことを妹に知らせる。
 ズサァッという音がしてきそうな勢いで、妹が転んだ。
 それは父曰く、大の字と呼ばれる形で芝生に寝そべった。前足後ろ足がぐったりと伸びて、腹も広がっている。
 大きく、とはいったが驚くほどの大きさではなかった。なのに、まるで驚かされたように甲高い奇妙な鳴き声をあげた。
 ほんとうに、我が妹ながら白狼らしくない。
 その様子に掠れた鳴き声を漏らしてしまった。妹には、聞こえていなかったようだ。

「きゅぅ」
「ワン」

 妹を咥えて立ち上がらせる。
 生まれたての白狼のように足を震わせながら、何とか四足で立った。
 ふらふらと歩く妹が心配になりながらも、ここは白狼の雄として、兄弟として、妹を甘やかしてばかりではいけないという一心で、妹を傍観するだけにとどめた。
 やがてまっすぐ立った妹は、俺が見守るなか、速度は遅いながらも走り始めた。
 擬音をつけるなら、トテトテ、といった音だろうか。
 途中でフラフラとしながら、なんとか紫の花までたどりつく。
 すると、妹はそれが嬉しかったのか、元気よく吠えた。俺が耳を塞ぐほどの大鳴きだ。
 俺は4歩で妹のもとまで駆けると、よくやったと妹の身体を舐め上げた。
 妹は舐められるのはあまり好きではないようで、ぐりぐりとすり寄る俺から離れようともがいている。
 妹には悪いが、そこも俺の心をくすぐるので逆効果なのだ。
 いまだに愚図る妹を腹の下に手繰り寄せる。

「きゅ、ぅ」
「わフん」

 俺は別に力を入れているわけではない。
 知恵を使えば、あるいは白狼としての身体能力を使えば抜け出せるほど、力を弱めている。
 だけど妹が抜け出せないのは、きっとまだ力の使い方がわからないせいだ。
 普通なら生後1か月くらいで使い方は覚えるだろう。だが妹は育った環境が違うし、父に何も教わっていない。
 妹はこれからだろう。父や俺たちが教えていけば、妹もいずれは駆けることも跳ぶこともできるようになる。
 その日が待ち遠しいと思うこともあるが、やはり兄としては、もう少しこのままでいてほしいものだ。
 一緒に寝て、食べて、遊んで。いろんなことをしていきたい。
 俺たち兄妹は離れて育った。けど、これからでも遅くないだろう?
 意思の疎通もまだできないけど、少しおびえられているけど、だけどこれからが始まりだ。
 白狼にしては少し抜けていて、お転婆で、間抜けなところもあるけれど、そこが可愛いとも思うんだ。
 兄の欲目抜きにしても、我が妹は可愛らしい。
 ああ、これから何をして遊ぼうか。
 一緒に散歩をするのもいいな。水浴びをするのも楽しいだろう。
 そうだ、学園の敷地内を案内してあげようか。妹はわからないはずだから、きっと好奇心がくすぐられるだろう。
 向こう側の敷地内へはいけないけれど、白狼が暮らす敷地内はすべて回れるはずだ。
 暴れるのを諦めて大人しくしていた妹を咥えると、またまっすぐと立たせてやる。
 妹は小さく鳴きながら、俺の横に並び立った。
 さぁ行くぞ、という合図を大きく鳴いて送る。
 その合図に妹も鳴き返すと、足を1歩踏み出した。

 ……いや、その前に、この花を持っていこうか。
 止め方がわからなくなったのか、トテトテと歩き続ける妹を横目に、大きな木の下にある紫の花を器用に摘み取った。
 綺麗な紫の花、杜若(かきつばた)をつぶさぬように咥えると、妹の方へと駆けていく。
 妹の前に立つと、全身で妹を止めてやる。
 壁にぶつかったように止まった妹は、何事だとでも言いたげに俺を見上げた。
 そんな妹の頭の上に、杜若を差し込んでやる。
 内巻き気味の妹の毛並みは、杜若の茎を上手く絡み取って妹の真白い毛並みに華を添えた。


 ――― 杜若(かきつばた)
 本来は5月から6月にかけて紫の花を咲かせる花。
 季節外れのこんな暑い時期に、1輪だけ咲いた杜若。
 父に聞けば、俺たちが生れた5月頃、多くの杜若が咲いたらしい。
 その中でも、たった1輪だけ残ったこの杜若は、よっぽど根性があるんだろうか。
 何をつけられたかわからないような様子の妹を、似合っているという気持ちを込めて舐める。
 そしてその背中を軽く押して、歩くことを促した。
 杜若をつけた妹が自分の前を通りすぎると、瞬間、ある言葉が思い浮かんだ。
 いつか父に言われたその言葉を、目の前の妹に当てはめる。

 杜若の紫が映えて、まばゆい妹を見つめた。
 杜若のように控えめな花じゃなくて、もっと大きな花、向日葵が好きな妹だけど、でも俺は杜若も似合うと思うんだ。
 妹がくるりと振り返った。まんまるとした灰青色の目を俺に向ける。
 はやくきてー、といわれているようで、少し小走りに妹の方へと走り出した。
 その最中で、やっぱり、控えめな紫も妹に合うなと1匹頷く。
 だって、お馬鹿で、間抜けで、白狼らしくない妹だけど、杜若に込められたそれに確かにあっていると断言できる。
 間違いなく妹は、俺にとってのそれなんだって、確かに感じているから。
 可愛い可愛い妹。まばゆい妹。
 ニコニコ笑う君が、俺にとっての杜若であるように、いつか誰かの杜若になるんだろう。
 そうなる短い時間を、どうか俺に、俺たちにちょうだい。
 一緒に歩く狭い道も、キラキラ輝いているように見えるだろうから。
 青い空を眺めながら歩く小道が、俺たちの日常になるように。これからも、きっとずっと。
 だって俺たちは、キョウダイだろ?
 なぁ、可愛い妹。

 今日もお前との日々を大事にしてる。

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