アンソロ用小説サンプル


2015年7月5日開催「復活祭!・改」にて発行のツナリボアンソロジー"Regalo"に寄稿しました小説のサンプルです。


***


 沢田綱吉は硬い無表情のまま、年季の入ったバルを後にした。歩き始めていくらも行かないうちに、背後から低速で走ってきた車がすぐ脇で停まる。素早く後部座席に乗り込むと、ドアを閉めるか閉めないかのタイミングで発進する。全てはごく自然になめらかに進められた。
背凭れに深々と身体を預け、大げさに息を吐きながらシート上に鞄を放る。
「はあー……」
「どうでしたか」
「ん?ああ、無事済んだよ」
 特に詳細を聞くつもりもなさそうな運転手の問いかけに応えつつ、思い切り伸びをする。緊張のためかどうも肩が凝っている。今日の取引は終わったがこれは第一段階に過ぎない。先程受け取った品物は、数日後とある筋へ引き渡す手筈になっている。とっとと何もかも終わらせてしまいたい。
 馴染みのない都会の風景が次第に鄙びていく。ほどよい速度で走る車の揺れに身を任せ、十五分ばかり経った時だった。突然耳障りな高い音が鼓膜を引っ掻いた。間髪入れずドンと強い衝撃に襲われ、つんのめって前の座席に額から突っ込みかける。すれすれで手をついて、タンコブを拵えることだけは免れた。
「なに!?」
「すいません!前の車が」
 フロントガラスの向こう、通常有り得ない至近距離に、前を走っていた車が停まっている。急ブレーキに対応しきれず追突したのだと察したが、どうにも嫌な予感がする。男が二人降りてきて、運転席の窓ガラスを激しく叩く。綱吉の運転手が憤然と窓を開けた。
「そっちが急に――」
 しかしその先は出て来なかった。押し黙った彼の額に突き付けられた銃口を見て、漠然とした予感は確信へとステップアップする。よりによってこんな時に。
「降りな」
 バックミラー越しに視線で問われ、無言で頷いてみせると、忠実な部下は素直にドアを開けて出て行った。入れ替わるように、コッポラ帽を被った小男が銃を見せつけながら乗り込んでくる。運転手はもう一人の、髭面の男によってゆっくりと後退させられている。
「さあ、ドライブだ。大人しくしてろよ」



 襲撃者たちは、少なくともドライバーとしてはまともだった。ごく普通の速度でごく普通に公道を走り、信号無視も逆走もしない。ただし、綱吉は隣に座っている髭面に銃口を向けられ続けている。更に、鞄の中身を物色されている。手帳、電子辞書。特に目ぼしいものはない――ひとつを除いて。そのひとつはあっという間に男の手に握られていた。
「おっと、臨時収入をありがとよ」
 黒いシルクを貼った箱の中身を見てニヤニヤしながら男が言う。先程の取引で受け取ったばかりのものだ。


*


「俺も迂闊だった。悪いと思ってる」
 部下たちが一斉に首を振るのを、直視できずに俯いた。乾いた唇を舌で湿して慎重に言葉を選ぶ。
「とにかく、もう聞いてると思うけど大事なものだから、なんとしても見つけ出して欲しい。ただし見つけても箱を開けないように。君たちを信用してないわけじゃないけど、用途が用途だからね、中身を知ってる人間は少ない方がいい」
 じっと耳を傾けていた男たちは、押し黙ったまま頷いた。
「よし、じゃあ、申し訳ないけどよろしく」

 皆足早に部屋を出て行く。その時内線電話のコール音が鳴り響いた。最後に残っていた獄寺が応対する。
「はい。はい……客?ええ?どんな……ああ、なるほど、分かりました。大丈夫です、ええ。では」
 受話器を置いた獄寺が振り向いて何か言いかけたが、突然ドアが忙しなくノックされる。不審に思った様子もなく鍵を開けに行こうとする彼に、綱吉は慌てて聞いた。
「待って、何?誰か来た?」
「リボーンさんです。流石の早耳っすね」
 血の気が引いた。しかし止める間もなくドアは開かれ、招かれざる客を迎え入れてしまった。
 リボーンは三つ揃いのスーツを見事に着こなした、趣味の良さがやや鼻につく、魅力的な少年に見える。彼の顔を見るのがものすごく嬉しいときと、ものすごく嫌なときと、綱吉にとってはどちらか一方なのだが、今回は後者だ。
恐怖と焦燥のために強張る表情筋をどうにか動かして声をかけた。
「……何しに来たの」
「そういうお前は何してるんだ。昨日の夜には戻るはずだったろ」
 返事に詰まる。リボーンは全て心得ている様子で、呆れたように鼻で笑う。
「まったく、珍しく気合い入れてるかと思えば、人の期待を裏切らねー奴だな。ある意味」
「うるさいよ、分かってんなら聞くなって……ほんとに何しに来たんだ?」
「何も。ただ、俺の生徒の奮闘ぶりを見物させてもらおうと思って」
「見てそれで笑うんだろ!?」
「そういうこともあるかもしれねー」
「帰れ」
「そんな口のきき方を許した覚えはねーぞ」
「帰ってください、お願いします」
「頼みを聞く義理もねーな」
 ちくしょう、と無言でソファを殴りつける。ぼふん、と間抜けな音がしただけだった。




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