獄寺隼人が最初だった。
 7月のある晩、コヨーテ・ヌガーに連れられて屋敷にやって来た彼はスーツ姿だった。だからきっと呼び出しのあった時点で察していたのだと思う。この日を待っていたと言わんばかりの顔をして、けれど淡々とした振る舞いを崩さないので、若い自信と老練な落ち着きを兼ね備えて見えた。俺なんかよりもずっと立派で堂々としている。しかし落ち込んだり卑屈になったりするだけ無駄なのだ、なぜなら全く違う育ち方をしてきたのだから。
 コヨーテが口述していく掟のそれぞれに、彼はいちいち頷く。もう今更確かめるまでもなく全て知っていることだろうに、表情はきりりと張り詰め、真剣な色を湛えていた。
 この儀式に懸ける想いの強さがひしひしと伝わってくる。

「掟については以上だ。もう一度聞くが、お前は今後コーザ・ノストラの一員として生き、そして死ぬことになる――」
「分かっています」
 返答は淀みなく素早かった。分かっていたことだがまじまじとその顔を見てしまう。視線に気付いてか俺の方を向いて、口元を綻ばせた。
「十代目」
「うん?」
「俺がこうなるのは、生まれた時からほとんど決まっていたようなものでした」
 綺麗な顔だ。造りのせいだけじゃなくて、決然とした態度、固い覚悟を窺わせる瞳がそう思わせるのだと分かる。
「あなたに出会ったことを幸運に思います。俺は他の誰でもなく自分の意思で、この一歩を踏み出せる」
「……そっか」
 どの道彼の選択を妨げることなど出来ない。清々しささえ漂う微笑に頷いて、九代目の方へ振り返った。彼を引き取ってボンゴレの庇護下に置いた当人だから、九代目が代父を務めるのは自然なこと――らしい。
 老人は穏やかな足取りで、今まさにマフィアと呼ばれるものになろうとしている若者に歩み寄った。

「覚悟は出来ているね?」
「はい」
 2人のやり取りはそれだけだった。隼人は――今までは俺の友達で、これからは本格的にそれだけでなくなってしまう彼は、すっと右手を差し伸べた。



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