テキスト短編 | ナノ


 終わらないものはないから








真っ暗な夜の闇、少し寂れたアパートの屋上に、花火が良く見える場所があるよ。


きっと誰も知らない。僕らだけで独り占め。

ううん、二人占めだ。





階段を駆け上った彼女は、屋上に着いた瞬間、感嘆の声をあげた。


「…わぁあ……!綺麗……!」


確かに綺麗。
黒のキャンパスに広がる色取り取りの火の花。咲いては散り、散っては咲いた。


フェンスに身を乗り出し、君はそれを大きな瞳一杯に映す。そして顔を綻ばせるんだ。

君の幸せそうな表情を見るだけで、僕は、嗚呼、ここまで来て良かったなと思うんだ。

ううん、生きてて良かったなと思う。


「………ねぇ?」


花火に見とれていた彼女が、彼女に見とれていた僕を見る。


「…うん?」

曖昧に微笑んで、先を促す。


「花火って、すぐ消えちゃうよね」

「そうだね」

「ずっと綺麗なものってないよね」

「……そうだね」

「私達もさ、今はあの花火みたいに、こう、……咲いてる…けどさ。いつか……散っちゃうよね」

――どん。


彼女の肩越しに花火が弾けて、世界をコントラストに誘った。


空は暗く、でも明るく、街灯が光り、彼女が影になる。



「……そうかな」


「散るって、別れることだけじゃないよ?」


「死んでしまう…とか、……あは、他に思い付かないけど」


そこでくるりと舞って、僕に背を向ける。


「だから、今、目一杯咲いときたいなって……思って……。」



見えないけど、彼女はきっと真っ赤な顔してるんだろう。



「……なんでかな、綺麗なもの見てたら急に言いたくなって……恥ずかしい」



…ほらね。馴れない、詩人みたいなこと言うから。

………でもさ、僕は、それを恥ずかしいとか馬鹿馬鹿しいとか、全然思ってないよ。


そんなとこ、まるごと。



僕は、彼女の背中と、体と、とにかく全部を抱きしめた。


その手を、そっと握り返される。
…暖かい。



「……うん。咲けるときに目一杯咲こう。……目一杯。散るなんて思えない程に」



そして、花火も、咲いている内に見よう。
……ほら、早くしないと散ってしまう…。












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