自室のドアを開けたら、馬鹿が居た。








「じゃあ、俺は帰る。ゆっくりな」

「待って待って待って!ここ!ここがルルーシュのうち!帰るとこ!」

お願いします何とかして下さい…っ!


馬鹿こと枢木スザク(17才♂)は、そう言って泣きついてきた。
いやいやいやいや。
俺に一体どうしろと…?!










◇とある日常的トラブル◇










あんまりな状態に問答無用で部屋から追い出す事も過ったが、あまりにも情けない顔で追い縋るものだから可哀想になってきて話を聞いてやることにした。
馬鹿はグスグス泣きながら(いや、半分以上嘘泣きだが)、ベッドに腰を下ろした俺の前で床の上に正座している。
…その馬鹿の股間部分を、正しく馬鹿な状態にして。




「で?」

「え?何が?」

「それをこっちが聞いてるんだろう…!」

何をどうしたらそんな状態になるって言うんだ!




眼の前の非常に馬鹿馬鹿しい事態に、自然と続ける言葉の語調が荒くなる。
いやいや駄目だ。馬鹿を相手にするのに馬鹿と同じ目線になっては…心を広く持つんだ俺!




「…とりあえず、どうして俺の部屋に?」

「や、今日珍しく夕方からオフになったから…」

ルルーシュもそろそろ帰って来る時間かと思って…っ!ほら、暫く顔も合わせて無かったし…っちょっとでも会いたいな、と思って…クラブハウスに来てみたら咲世子さんが中でお待ちになったら如何ですか、って聞いてくれてお言葉に甘えた、っていうか…




俺の投げ掛けた質問に答える声が段々小さく弱々しくなっていく。
まぁ、想定内の理由ではあったし、それはいい。
そう、そんな事はどうでもいいんだ。
一応聞いてやっただけで、何故部屋にいるかなどというのは些末事に過ぎない。

問題は…、




「で?」

「…え?なに「じゃ、無いだろう?」」




最初の問い掛けと同様にすっとぼけようとしたのを察知して、言葉を遮ってやる。
というか、よくその状態でまだ誤魔化そうと思えるな…。
スザクは目線を逸らしながら暫く逡巡していたが、意を決した様にこちらを向いて口を開いた。
…そもそも、悩んだ所で言うしか無いだろう馬鹿が。




「いや、なんていうか、思いつきっていうか…出来心っていうか…」



えへ。と、照れた様に笑う眼の前の馬鹿と本気で縁を切りたい。
寧ろ、縁を切らないと駄目なんじゃないか。こんな馬鹿がナナリーの傍に居ると悪影響が及ぶんじゃないか。
…それはっ由々しき事態じゃないかっ?!



「…スザク。悪いが今後一切俺とナナリーに関わらないでくれ」

「えぇぇえぇえぇっっ?!ちょ、ごめんって!本当に反省してる!本気で!」




俺の言葉に本気を感じ取ったのか、焦ったように正座を解いて立ち上がる。
まぁ、自主的に正座していただけで俺が強制した訳では無いからそれに対しては特に咎める必要も無い。別にいいだろう。
だが、しかし、




「お前…っ!ソレを早くどうにかしろっ」

「どうにか出来ないからこんな状態を君に見られたんだろー?!」












そう、
この馬鹿の股間部分には、何故か牛乳瓶がその存在を主張していた。
何故だ。どうしてそうなった。












「変態だ変態だと思ってはいたが…まさかここまでとは…」

「違うよっ!ただの出来心なんだって!」

「その『出来心』がおかしいんだ馬鹿が」

「だってさ?!部屋に入ったらなんでかルルーシュの机の上に空の瓶が置いてあるしさ!」

「お前、空き瓶を見ると見境無く自分のモノを突っ込むのか?」

「なわけ無いでしょ!ただルルーシュがこの瓶に口をつけたのかと思ったら無性にムラムラしただけで!」

「それが変態だと言うんだ馬鹿」

「ちょっとさっきから馬鹿馬鹿酷くない?!」

「酷いのはお前の頭だろう!」




もう嫌だ。何で俺はこんな馬鹿と友人、更には恋人関係になってしまったんだ。過去を消したい。この馬鹿と一緒に葬り去りたい。




「大体、そんなものさっさと引っこ抜けば良いだろう。なんでわざわざ俺に見せつける必要があるんだ」

「出来たらしてるよ!こんな姿誰かに見せたいとか有るわけ無いだろ?!」




ほとんど泣きそうな声でスザクが叫ぶ様に弁解する。
なるほど。確かに俺に対するセクハラにしては身を削りすぎている。
と、いうことは、




「なんだ。本当に抜けなくなったのか」

「………だから、さっきからそう言ってるでしょ………」




今までの会話より明らかに下がった声のトーン。
流石のスザクでも、この状況には意気消沈しているのが見て取れる。
まぁ、そうだろうな。
自らのこんな情けない姿を見られたら、落ち込む位するだろう。




「よし、わかった。抜けないと言うなら、それはそれで問題だ。詳しく説明してみろ」

「……ルルーシュの部屋にあった牛乳瓶につい出来心で突っ込んでみたら抜けなくなった」

「突っ込む前から勃ってたのか?」

「そんなわけ無いだろ。勃ってたらサイズ的に入らないし」

「じゃあ、突っ込んでから興奮した、と?」

「…まぁ、正確に言うと入れる前からちょっとは興奮してたけど…」



だって悪戯心が芽生えたのもルルーシュが口をつけたっていうのがそもそもの始まりで…などとスザクが何やら言い訳らしきものをぶつぶつ言っているが、それは今は放置だ。




「で、突っ込んだら興奮して膨張して焦って抜こうとしたら抜けなかった、と」

「…その通りだけど、言葉にすると間抜けだから止めて欲しい…」

「事実だろうが」

「いや、そうなんだけどさ…」




改めてしっかり状況を確認したら、更に情けなさが増したらしいスザクが眉を八の字にして抗議してくる。
抗議出来る立場か。とも思うが、俺自身この異様な状況は早々に解決してしまいたい。
いい加減この画はシュールすぎる。




「状況は大体把握した。恐らく打開策も見当はついている」

「本当?!」




さっきまでの情けない顔から一転して、嬉しそうな顔を浮かべるスザクに微笑ましものを感じたが、視線を落とすとそんな気分は霧散してしまう。




「まぁ…とりあえず見せてみろ。一応確認したいしな」

「えっ?!」

「…何だ。まだ何か問題でもあるのか」

「いや…特に無いけど…」




何やら歯切れの悪いスザクはこの際無視して、直立不動状態の奴の前に跪いて問題のブツを観察してみる。



…なるほど。確かに牛乳瓶の入り口と膨張途中なスザクのブツはピッタリ隙間無く嵌まり切っている。
しかもスザクのモノが入り口のサイズよりオーバーしている様で、血管の浮き上がり方が傍から見てもなかなかに痛そうだ。
これは早めに処置してやった方がいいだろう。



そう思って跪いた状態から見上げると、妙に頬を紅潮させてこちらを見ているスザクと眼が合った。
思わず手に取って観察していた間抜けにも牛乳瓶に覆われて勃ち上がっているブツを、本来曲がるべきで無い方向に押しやる。



「ッッ痛ッ!ちょ、ルルーシュッ!痛いって!!」

「馬鹿が」

「えっ?!何、僕が悪いの?!」

「あぁ。お前が馬鹿なのが悪い」




とにかく、早く解決してこの馬鹿を追い出そう。
そう思って俺は、状況打破の準備をする為に未だ何か言い募るスザクを無視して立ち上がった。















―――――30分後。















「ルルーシュー!!!!」




バタンッ!と大きな音を立てて、スザクがバスルームから飛び出てきたのを背後で感じた。




「流石ルルーシュ!ルルーシュの言う通りにしたらちゃんと抜けたよっ!」

もう僕このまま一生牛乳瓶に突っ込んだまま過ごすのかと思った…!



本気とも冗談ともつかない調子で話している。




「そんな訳無いだろう。大体ー…」




パソコンに向かっていたのを中断してスザクへ振り返ろうとした瞬間、唐突に脇の間に手を差し込まれて無理矢理抱きかかえ上げられる。
しかも、




「ば…ッ!馬鹿がっ!抜いてこなかったのか?!」

「え?抜けたって言ったじゃないか」

「そうじゃ無くてだな…ッ!当たってるんだよ馬鹿!」

「抜いたけどヌいては無いかな」

「一丁前に言葉遊びか!いや!その前に服を着ろッ!なんで全裸なんだ!」

「いいじゃん。どうせ直ぐ脱ぐんだし」




直ぐ側にあるベッドの上に放られて、身動ぎする間も無く上に覆い被さられる。




「あ。そういえばルルーシュ、今日僕に対して『馬鹿』って言い過ぎだったよね。
…お仕置き、だね?」




何だその取って付けたような言い回しは!何だそのにやけ面は!とか、
そんなの明らかに言い掛かりだ!そもそも馬鹿な事を仕出かしたのはお前なのに!とか、
言いかけた数々の俺の抗議は、強引に合わさってきた唇に飲み込まれた。





……やっぱり最初に追い出せばよかったんだ……。





























「あ、ルルーシュも牛乳瓶に突っ込んでみる?」
「…お前、ホント死んでくれ…」





end










瓶の抜き方:冷やす→隙間にストローをさす で、抜けやすくなります。