季節の半分が雪に覆われるその町に、スザクくんは住んでいました。 短い夏が終わり葉っぱが色付く秋が通りすぎて、どこもかしこも真っ白になる冬がやってきました。 ◇たいせつな◇ 朝から強い吹雪が窓を叩いていました。 お外遊びの好きなスザクくんは退屈で仕方ありません。 「はやくゆきがやまないかなぁ」 こたつに潜って不貞腐れているとそのうちまぶたが重くなってそのままうとうと寝てしまいました。 「スザク起きなさい!」 おかあさんの声で目が覚めると窓の外は積もったばかりの雪におひさまが反射してきらきら光っていました。 スザクくんは大喜びでお外に走っていきました。 おうちのすぐ裏にある林の中にぽっかり広がったその空間は、スザクくんの小さな秘密基地でした。 そこでしばらくひとりでソリを滑ったり、おうちから持ってきたおわんやビー玉、雪の下に埋もれてしまっていた小枝や葉っぱで雪うさぎや雪だるまを作ったりしていたスザクくんでしたが、だんだん退屈になってしまいました。 「ひとりであそぶのはつまらないなあ」 作りかけの雪だるまをそのままにおうちに戻ろうとしたその時、スザクくんを呼び止める声がしました。 「もう雪だるま作らないの?」 びっくりして振り返ると、作りかけだった雪だるま横にスザクくんと同じ年くらいの見たことのない男の子が立っていました。 「おまえだれだ!」 思わず大きな声で怒鳴ってしまったスザクくんでしたが、男の子は気にする様子も無くにっこり笑って言いました。 「はじめまして。僕はルルーシュ」 ルルーシュくんといったその男の子は、とってもとっても綺麗でした。 雪みたいな真っ白な肌に、おひさまの光を全部吸い込んでしまうような真っ黒な髪の毛。 その中で一際きらきらしている葡萄色の瞳が、スザクくんの一番の宝物のビー玉そっくりでスザクくんは一目でルルーシュくんが大好きになりました。 「おまえひとりでつまんないだろうからおれがあそんでやるよ!」 スザクくんがそう言うと、ルルーシュくんはキョトンとした顔をして今度は面白そうに笑いながら言いました。 「それじゃあ遊んでもらおうかな」 そうしてふたりは、作りかけだった雪だるまを作りなおしたり、ソリで滑ったり、雪合戦をしたり、日が暮れるまでたくさんたくさん遊びました。 夕方になってオレンジ色のおひさまが真っ白な雪をはちみつ色に変える頃、ルルーシュくんは言いました。 「スザク、もうすぐ夜が来るよ」 「いやだ!」 スザクくんはルルーシュくんと遊ぶのが楽しくて、おうちに帰りたくありませんでした。 「ダメだよ。みんなが心配するよ」 「だって、オレはもっとルルーシュとあそびたいんだ」 くちを尖らせてそう言うスザクにルルーシュくんはクスリと笑って、もこもこの手袋を外してスザクくんの目の前に差し出しました。 「だいじょうぶ。明日も遊べるよ」 「ほんとうか?!」 「うん。約束」 スザクくんは嬉しくなって急いで手袋を外しました。 ゆびきりしたルルーシュくんの小指がとっても冷たくてスザクくんは少し心配になりました。 東の空には紫色のカーテンがかかりはじめてきていました。 次の日からスザクくんとルルーシュくんは毎日毎日一緒に遊びました。 おいかけっこや雪合戦はいつでもスザクくんが勝ちました。 その度に悔しそうな顔をするルルーシュくんでしたが、雪だるまやかまくらはルルーシュくんが誰よりも上手に作りました。 ふたりで遊んでいると時間が経つのがあっという間です。 お空でぴかぴか光っているおひさまも、すぐにオレンジに色を変えて西の空に沈んでいきます。 そしてふたりはおうちに帰る前に、必ずゆびきりをしました。 『また、明日ね』 初めてスザクくんがルルーシュくんに会った時よりもおひさまが顔をだしている時間がぐんと延びた頃、その日もスザクくんとルルーシュくんは一緒に遊んでいました。 日差しがぽかぽか気持ちよくて、なんだか眠たくなる陽気でした。 たくさんたくさん遊んで、帰る前にゆびきりをしようとスザクくんが手袋を外そうとしたその時です。 「スザク、僕はもう君と遊べないんだ」 ルルーシュくんは悲しそうにそう言いました。 スザクくんはそれを聞いて声が出ないくらい驚きました。 新緑色の大きな瞳を真ん丸にしてルルーシュくんを見つめても、ルルーシュくんは困ったように笑うだけでした。 「いやだ!ルルーシュ、どうしてっ!」 スザクくんの大きな瞳にはみるみる涙が溜まってまあるい頬っぺたを伝ってボロボロと零れ落ちていきます。 「せっかく、ともだちに、なれたのに…!」 「…ごめん、スザク」 「だって…!オレはもっとルルーシュとあそびたいんだ…っ!」 いつか言ったようなその言葉にも、ルルーシュくんは困った顔をするだけで何も言ってくれません。 スザクくんは悲しくなってその場で大きな声でわんわん泣いてしまいました。 空がオレンジ色から綺麗な綺麗な紫色に変わりはじめた時、ルルーシュくんは静かに口を開きました。 「スザクはきっと、すぐに僕を忘れるよ」 「わすれるもんか!」 スザクくんはルルーシュくんの言葉に、とっても腹が立ちました。 スザクくんが泣きすぎてうさぎみたいに真っ赤になった目をつり上げてルルーシュくんを見ると、ルルーシュくんはいつかのようにクスリと笑って言いました。 「もしスザクが大人になっても僕の事を覚えてくれていたら、その時は僕はもうどこにも行かない」 「ほんとうか?!」 「うん。約束」 そうしてスザクくんとルルーシュくんは、いつもと同じでいつもと違うゆびきりをしました。 『また、会おうね』 それからしばらくスザクくんはおうちから出ませんでした。 お外遊びが大好きなスザクくんがお外に出ていかない事に、スザクくんのおかあさんは不思議な顔をしていましたが何も言いませんでした。 そんなある日、スザクくんは大変な事に気がつきました。 「ビーだまがない!」 そうです、スザクくんがとっても大切にしていた宝物の葡萄色のビー玉が無くなってしまったのです。 おうちのおもちゃ箱をひっくり返して探しても、おかあさんに聞いてみてもビー玉はどこにも見当たりません。 「あっ!そうだ!」 スザクくんは思い出して、急いでおうちの外に飛び出しました。 スザクくんが走って向かった先は、ルルーシュくんとたくさん遊んだ林の中の秘密基地でした。 雪で真っ白だったそこは、今は少しの雪が残っているだけでした。 ルルーシュくんとたくさん作ったかまくらも雪だるまも雪うさぎも、もうどこにもありません。 スザクくんはまた悲しくなってが目蓋がじわりと熱くなりました。 そのときです。 「スザク」 名前を呼ばれた気がして振り返ると、視界の端できらりと光るものに気が付きました。 「あっ!!!」 そこにあったのはほとんど溶けて形がわからなくなった雪うさぎと、その雪うさぎの目だった二つの葡萄色のビー玉でした。 ルルーシュくんとそっくりな葡萄色のビー玉が、おひさまの光に照らされてきらきら輝いていました。 「ルルーシュ…」 スザクくんは二つの葡萄色のビー玉を、そっとポケットにしまいました。 そうすると、不思議とさっきまでの悲しかった気持ちが泡の様に消えていくような気がしました。 「オレはぜったいわすれないからな!」 スザクくんは広場に響き渡るくらい大きな声でそう言うと、そのまま振り返らずおうちにむかって走り出しました。 長い長い冬が終わって、柔らかく暖かなおひさまがさんさんと降り注ぐ春がすぐそこまできていました。 おしまい 絵本みたいなスザルルが書きたくてつい。 |