いつもの食卓。 いつもの朝食風景。 一緒に暮らし初めて早1年と少し。 今まで我慢してきたが、今日こそ絶対言ってやる。 俺の苛々はピークに達していた。 ◇他愛もない◇ なんの変鉄もない朝食の席。 暮らし始めた当初は日替りでパンとご飯を順番に用意していたものの、スザクの希望で朝食はご飯を主食とした和食に完璧にシフトチェンジしている。 今日も、鯵の干物、大豆とひじきと鶏肉の煮物、小松菜とおかかの煮浸し、梅風味のだし巻き玉子、昨夜の残りの肉じゃが、弁当の残りのアスパラベーコンと唐揚げ、豆腐とワカメの味噌汁にご飯。 これに、スザクの分には納豆も用意してある。 どう見たって完璧な朝食メニューだ。 朝食にしたら品数だって多い方だろう。 我ながら非の打ち所が無い。 それなのに、 「ルルーシュー」 「………なんだ」 「なんか、漬け物とか無いー?」 これだ。 漬け物位いつだって出してやる。 現に、冷蔵庫のタッパーに漬け物のストックだってあるし、床下の糠床には旬の野菜だって漬けてある。 別に出し惜しみするつもりも無い。 しかし、だ。 「…お前、これだけオカズがあってまだ足りないと…?」 「え?そういうつもりじゃ無いんだけど…」 困った様に眉根を寄せながら、手に持った箸は目の前の魚に伸ばして上手に身を解している。 こいつの箸使いは本当に綺麗だな、と意識を取られそうになってハッとした。 違う!今はそんな事を考えている場合じゃ無い! 毎日毎食繰り返される不愉快な発言対にして、流石にそろそろ注意を促さなければ。 いい加減、我慢の限界なんだ! 「お前、毎回漬け物やら佃煮やら海苔やら欲しがるよな?」 「え、そうかな?」 意外な事を言われたとばかりに、大きな目を真ん丸にしてこちらを見詰めてくる。 く…っ!かわい…否!違う! 「酷い時は『ルルーシュ、ふりかけ頂戴』だぞ?俺の用意する食事はそんなに物足りないか…?」 ああ…思い出して何だか悲しくなってきた。 俺なりに量もバランスも考えて作っている食事を前に、ふりかけを要求される虚しさ…。 俺の食事よりふりかけの方が美味いと言うことか? 「そんな訳無いじゃないか!!!」 焦った様子でスザクが大声を出した。 おい、口の中のモノが飛んだぞ? と、思ったけれどスザクの必死さに一旦スルーしておく。 テーブルに飛んだご飯粒は、布巾で然り気無く拭いておいた。 「君のご飯が一番美味しいし、物足りないなんてそんなの思った事なんて一度だってないよ!」 「スザク…」 俺の作る食事が美味いのは当たり前だが、改めてスザクに面と向かって言われると胸の奥が擽ったく温かくなる。 いや、待て。 ここで誤魔化される訳にはいかない。 スザクの言葉は嬉しいが、ここで有耶無耶にしてしまっては俺の不快感が解消される事は無い。 それは俺の精神衛生上非常に好ましくない事態だ。 「それなら、なんでいつもテーブルに出してある物だけで満足してくれないんだ」 「え…ごめん。僕、本当に無意識だったみたいで…」 そんな事言ってるつもりも無かったし、そのせいで君を傷付けてるなんて思いもよらなかったんだ…。 そう言ってしょんぼり項垂れてしまったスザクは、叱られた犬の様でつい絆されてしまう。 こんな事じゃいけないんだろうな、とは思うもののこれが惚れた弱味というやつだろうか。 つもり積もった胸のもやもやも、スザクの殊勝な態度を目の当たりにするだけで不思議と霧散していく気がした。 「…わかった」 「え?」 こちらを探るように伺うスザクの表情は、成人した男のそれだと思えない位幼い。 その情けない顔に、思わず笑みが浮かぶ。 「悪気が無かったのは、わかった」 「うん…」 「でも、俺はお前の発言で不愉快な気分にさせられた」 「それは…ごめん…」 「だから、これから気を付けてくれたらいい」 「本当に?」 「別にそこまでしつこく責め立てる様な事でも無いしな」 これで、この話は終わりだ。さっさと食べて仕事行かなきゃな。 そう言って食事を促すと、うん!と反省顔が一変して嬉しそうな顔になる。 この子供みたいな所を見てしまうから怒りを持続させられないのかもな…。 なんてどうしようもない自己分析をしながら、俺も自分の食事に箸を伸ばした。 「ルルーシュー」 「なんだ?」 「僕、朝はご飯よりパンが食べたい」 「…………………善処しよう」 パンよりご飯が良いって言ったのもお前なんだけどな? 喉まで出掛かった言葉は、今はまだ飲み込んでおいた。 end ベタ惚れるるしゅとなんちゃってぴゅあるぎ |