証拠は揃った。


さぁ、お前はどう言い逃れる?










◇cheater!◇










「スザク、話がある」

「なに?改まって。怖いなぁ」




週末、いつも通り起床していつも通り朝食を作って前日から入り浸って泊まり込んでいたスザクを起こしていつも通りダイニングのテーブルの椅子に座ったスザクと向かい合って、いつもの調子で話を切り出す。




「お前、浮気してるな?」

「え?」




一切の無駄を省いて単刀直入に告げる。
どういったリアクションをしてくるかと注意深くスザクを観察してみるが、少しの動揺も見られない。
至って平然と朝食のサラダに手を伸ばしている。
眉一つ動く気配も無い。


なるほど、敵も然る者だ。
この俺相手に誤魔化そうというわけか?
だが、甘いぞスザク。
俺が。この、俺が。
何の策も無くこんな事を言い出すとでも?
面白い。どこまで苦しく誤魔化すか見せてもらおう。


俺は、全く身に覚えが無いとでも言いた気な惚けた表情で食事を続けるヤツに、一つ目の物的証拠を突き付けてやった。




「これは、一体何だろうな?」




ポケットから取り出して、テーブルの上に置いて見せる。
可愛らしいデザインのゴールドのピアス。小さくても、スザクの眼ならはっきり何なのかを捉えている筈だ。
さぁ、お手並み拝見といこうじゃないか。



「なにそれ?」




全く動揺する気配も無く問い返される。
良いだろう。その切り返しは想定の範囲内だ。




「お前の部屋に落ちていた」

「へぇ。なんでだろうね」

「それを俺が聞いているんだがな?」

「うーん…分からないものは答えようが無いからな…」




会話を続けながらも、食事のペースは落ちる事も速くなる事も無く至って通常通りだ。
更には、食が進んでいない俺を見て、食べないの?などと言い出す始末。

何だコイツ。なんでこんなに冷静なんだ?



実際の所、浮気はクロだ。間違いない。
最初に疑惑が上がってから数ヶ月、俺は地味に証拠集めに奔走した。
最初は流石にショックで、“浮気の証拠”探しというよりは“浮気をしていない証拠”探しだった。
第六感や状況証拠が示すその事実を、明らかな裏付けによって撤回したかった。
信じていたし、信じたかった。
その気持ちは、調べれば調べるほど無惨に打ち砕かれたけど。

…駄目だ。思い返すとまた思考が沈んでいく。
気持ちを切り替えろ、俺。




「なるほど。このピアスには見覚えが無い、ということか」

「全く見当も付かないね」

「お前のベッドに落ちてたんだけどな?」

「え、そうなの?なんか怖いな」




念を押した確認にも、眼を見開いて驚いた振りをしてみせる。

怖いのはお前だよスザク。
どうしてそんなに平然といれるんだ。

想定していた反応なのに、実際目の前でされると怒りを通り越して悲しくなってくる

あぁ、これは不味い。

鼻の奥がツンと痛んだのに気付かない振りをして、俺は言葉を重ねた。




「…わかった。これには心当たりは無いって事だな」




おもむろに席を立ち、自室に戻って紙袋を手に取り再び椅子に座る。




「?どうしたの?」




俺の手にしている紙袋に不思議そうに視線をやる。

テーブルの上には、もう殆ど食べ終わっているスザクの朝食と殆ど手付かずの俺の朝食。
そんなのお構い無しに、紙袋を逆さにしてテーブルにぶちまけてやった。




陶器の割れる不快音が響く。




「アレには心当たりは無かったらしいからな。これだけあれば、どれかはどこかの心に当たるだろう?」




テーブルの上にはさっきまで朝食だったモノと、紙袋の中から取り出した今まで集めた証拠品が雑に散らばっている。


化粧品に始まり、日用品、下着、プリクラまで種類は豊富だ。



折角集めた証拠品、もっと有効的なシチュエーションで使うべきだ。と、頭の中の冷静な部分が忠告するが、聞き届けられない辺り俺も相当切羽詰まっていたらしい。




「なにこれ」




この数々の物証に流石に何かしら反応を示すと思ったスザクは、予想外にも未だに顔色一つ変える事は無かった。




「『なに』だと…?お前、本気で言っているのか」

「うん。悪いけどさっきからルルーシュが何を言ってるのか、僕にはさっぱり分からないんだけど…」




そう言って肩を竦める仕種をしてみせる。

分からない訳が無い。これは全てスザクの部屋から押収したモノだ。
スザクの気付かない所に置いてあったモノもあったかも知れないが、全く見覚えが無い訳が無い。
しかもプリクラには、しっかりスザクの顔も写っている。
可愛らしい女の子とキスまでしてる。
この持ち物が全て彼女の物なのかは不明だが、矛盾しか無い酷く苦しい言い分だ。




「…わかった」

「良かった。誤解が解け「別れよう」」




安心したように話し掛けてきたスザクの言葉を遮って告げる。
今まで一つ表情を変えなかったスザクが、俺の言葉を受けて眼を大きく見開いた。
何か言葉を発するように口を開きかけたのを見ない振りをして、俺は言葉を続けた。



「お前にとって俺は、明らかな浮気も言い訳する程のものじゃ無い存在。って事だな」

「ルルーシュ、なに言ってるの?」

「いや、良い。分かってる。そもそも、だ。男同士で本気で付き合うだの何だの、それがおかしかったんだ。生産性が無い行為を繰り返してるのが、不自然なんだ。…初めから分かってたんだ、お前が飽きたらこの関係は終わりだって。責める様な真似をして悪かった。俺は、」

「ルルーシュ」




今まで抱え込んでいた気持ちを全部吐き出そうと一息に捲し立てると、今まで聞いた事の無いトーンで名前を呼ばれた。
話している内に自然と下を向いてしまっていた顔をあげると、スザクはその翡翠色の眸を吊り上げてこちらを見ている。

これは怒って、いるのか?
一体何に…?




「君は、何でそんな酷い事を言うんだ」

「…?」

「本気で、君を好きだって言ったらおかしいの?僕が終わりだっていったら、そうか。ってそこで終わりなの?」

「いや……そうじゃ無くて…俺は、」




おかしい。
責められるべきは、スザクの筈なのに。
これは、立場が逆転してるような…?

考えに沈んでいると、気づけば目の前にスザクは移動してきていて、そのまま温かい腕に包まれた。




「ねぇ、ルルーシュ。僕は君が大好きなんだ。愛してる。お願いだから僕から離れるなんて言わないで」

「…じゃあなんで浮気なんか、」

「浮気なんてしないよ。僕には君がいるんだから」




温かい腕に包まれて、甘い言葉を囁かれても、直ぐ側のテーブルの上には明らかな証拠品達が散らかっている。



だけど、




「…わかった」

「本当?」

「あぁ」




数ヶ月抱えていた苦しさが、この程度の甘い言葉で消えていく訳は無いけど。




「誤解させてゴメンね」

「…あぁ」




そう言って近付いてくるスザクの唇を甘受しながら、馬鹿だな。と、呆れる自分も居る。
だけど、スザクの腕の中でスザクの香りに包まれていると、今回は誤魔化されてやろうと思えてくるから、我ながら始末に終えない。
きっと、また繰り返すのは眼に見えているのに。
明らかな浮気の証拠を提示して見せても、一切認めないような男なのに。




「どうしようもないな」

「え?なに?」

「いや、なんでもない」
















とりあえず、
当面の問題は、テーブルの片付けだな。


役に立たなかった証拠品達を視界の端に捉えながら、気が重くなるのを感じた。





end










浮気されるひとの典型。浮気は認めない者勝ちです。