「ルルーシュ?」 夕食の材料を買いに出掛けた帰り道、後ろから聞き慣れた声に呼び止められた。 振り向いて直ぐ様後悔する。 聞こえない振りを、したら良かった。 ◇foolery◇ 「…スザク」 「買い物?」 「あぁ」 「そっか。ねぇ、夕方寄っていい?」 「…構わないが、夕飯はどうする?」 「あー…迷惑じゃないなら…」 「迷惑なわけないだろう。ナナリーも喜ぶ」 「ありがとう。じゃあまた後で」 そう言って、少し離れた所で待たせていた女の子と並んで歩いていくスザク。 俺はちゃんと自然に会話が出来ていただろうか。 仲良く腕を組んで楽しそうに笑っている二人を見送りながら、胸の中に黒くてどろどろしたモノが溜まっていく。 息をするのも苦しくて、自然に呼吸が浅くなった。 この感情にはいつまで経っても、慣れない。 少しでも苦しさがマシになるかと大きく息を吐いたけど、何の気休めにもならなかった。 「…あ、夕飯…」 そうだ。 思わず夕食も誘ってしまったが、買い物は既にしてきてしまっている。 俺は先程とは違う種類の溜め息を一つ吐いて、食材の買い足しの為に来た道をもう一度戻った。 ◇ 夕方、予告通り顔を出したスザクを出迎えて、三人で和やかに夕食を終えた。 片付けを済まし、自室で他愛ない話しをしながら過ごしていると、急に体勢を崩されて視線の先に天井がある。 そして、目の前には胡散臭い笑みを浮かべるスザク。 「おい」 自分で思ったより音が鋭く響いたけれど、スザクは気にする様子も無く身体に手を伸ばしてくる。 「なに?」 「何の真似だ」 「何の…って、食後の運動?」 言いながらも止まる事無く身体を這い回る手を、手首を掴む事で中断させる。 俺のその行動に、面白く無さそうな顔をしながらも一応話をする気になってくれたのか、拘束を無理矢理振りほどく事無くされるがままになっている。 「…お前、昼間一緒に居た娘は…」 「あぁ、あの娘ね。彼女だよ」 俺の言おうとしている事を察したのか、つまらなそうな顔をしながらも悪びれる事もなくさらりと返される台詞。 「っていうかさ?ルルーシュ、僕に彼女が出来るといつも拒むよね」 「…ッ。当たり前だっ!こういう事は彼女としろっ!」 「彼女は彼女、ルルーシュとは違うじゃない?」 心底呆れた様に言われる。 まるで、俺の方が間違っているとでも言いたげに。 俺が、間違っているのか? あまりに当たり前の様に言われて、一瞬自らの認識にこそ間違いがあるのかという考えも過ったけれど、そんな訳、無い。 「…違うだろう、スザク」 「?」 「あの娘が彼女だって言うなら、大事にしてやれよ」 「???してるよ?っていうか、そんなのルルーシュに言われるまでも無いし」 「…っ」 自分で言った言葉も、スザクから返ってきた言葉も、重く深く胸に沈んでゆく。 あの娘は『彼女』らしい。 じゃあ、俺は? 幼なじみ?親友?…恋人? キスもする。セックスも、する。睦言めいた言葉も、囁く。 『彼女』の存在さえ無ければ、この関係は『恋人』と、もしかしたら言えるのかもしれない。 …それなのに。 スザクの言う事は、矛盾ばかりだ。 彼女がいるのに、俺を抱いて 俺を抱いているに、彼女を大事にしていると、言う。 言い切るその態度は一切矛盾を感じさせないが、そんなの考えなくたって間違っているのは明白じゃないか。 そう、言いたい事は沢山ある。 きっと、言わなければいけない事も。 「…ね、ルルーシュ」 会話にも飽きたのか、スザクが甘えたように顔を寄せてくる。 掴んでいた筈の手首も、いつのまにかほどかれて優しく頬に添えられていた。 お前にとって、俺は何なんだ。 その言葉は今回も、深い口付けに飲み込まれる。 スザクの矛盾を解っていながら、毎回スザクを拒めない自分にも呆れてしまうけど。 「ルルーシュ、好きだよ」 「…あぁ、」 俺もだよ。 行為を進めながら囁かれる甘い言葉より、もっと確認しなければいけない事があるはずなのに。 それでも、 俺からこの手は離せないんだ。 初めから、掴んでさえいなくっても。 俺は、今日も言えない言葉を抱えながら狡い男の首に腕を回した。 end スザクって『ルルーシュ』と『彼女』って明確に無意識に区別してそう。 |