何で俺は、女性じゃ無いんだろう。



なんて、

俺は絶対思わない。










◇incoherence side.L◇










「別れよっか」





明日の天気を聞くような軽い調子で投げ掛けられた言葉に、とうとうこの日が来たんだと思った。
なるべく軽く聞こえるように、そうか、と呟くのが精一杯だった。





「なにそれ」

「…?」

「『そうか』で、終わり?」

「…俺に何て言えっていうんだ」





自分から言い出した癖に変に突っかかって来て、呆れてしまう。





「理由とか、聞かないの?」

「聞いた所で一緒だ。お前の中でもう決まってるんだろうから」

「…僕の事を、随分解ってるみたいに話すね」

「それ位が解る程度には、傍に居たさ」





いつかこんな日が来る事は分かっていた。
覚悟も、していたつもりだ。
時期が来たら手を離してやるつもりだった。
それでも、胸を過った寂寥感は簡単に誤魔化せなくて、スザクに気付かれないようにそっと唇を噛んだ。

こんな事で、涙なんか流さない。





「ルルーシュ、君の綺麗な顔が好きだったよ。
優しくて、
気遣いが出来て、
料理も上手くて、
恥ずかしがりやで、
ほんの少し気難しい君が、大好きだった」





いつもスザクが垂れ流して囁いていた甘い言葉も、既に過去形だ。
分かっていた事なのに、胸が痛い。
息が、苦しい。
俺は、いつも通りの顔が出来ているだろうか。





「君も僕が好きだった?」

「さぁな」

「こんな時位、素直に言ってくれたらいいのに」






「別れたく無い、って?」






無理矢理口角を上げて、冗談染みた調子に精一杯の本音を混ぜた。





「あははっ。酷いなぁ、ルルーシュ」

「お前程じゃ無いよ」

「なにそれ」





案の定冗談だと取ったスザクに、少しの焦燥と安堵を感じる。
これからまた友達に戻れるだろうか。

失わなくて、いいだろうか。

形は変わっても、俺の傍に居てくれるだろうか。








女性のように綺麗な顔だ、と言われても。
女性のような気配りが出来る、と言われても。
女性のように料理が上手い、と言われても。
そんなの、全然誉め言葉なんかじゃ無い。


俺は、女性のように柔らかい身体をしていないし、
女性のような甘い香りだって纏わない。

何より、多くの女性がそうである事を許されるように、大人しく守られる存在でなんかいられない。

俺にも、守らなければならないものがあるから。
だから、俺は自分の手で大切なものを守らなければならない。


スザクは、スザクを必要としている人の元へ。


…出来るなら、この手を離したくは無いけれど。










「ルルーシュ、好きだったよ」










もう一度告げられたその言葉に、スザクが好きだと言った笑顔で返した。





end