夢を見るんだ。

繰り返し、繰り返し、夢を見る。










空は抜けるように青くて。

でも、僕の視界は何かに覆われていてすごく狭い。

人々の歓声の様な声が響いていて。

僕は、




その手で、






君を、










◇夢の跡◇










「…ッ!!!!!」





夜も明けきらない暗い部屋で、何かに急かされる様に飛び起きた。

心臓が有り得ない位の速度で鳴り響いて、頭は鈍器で殴られた様に痛む。
背中がじっとりと汗で濡れていて気持ち悪い。
荒い呼吸を落ち着かせる為に、大きく息を吐いた。




「…ん…?どうか、したのか…?」

「…ルルーシュ、」




隣で寝ていたルルーシュが、身動ぎしてこちらを向いている。




「ゴメン。起こしちゃったかな」

「別に良い。…どうした?」

「え?うーん…多分、夢見が悪かったのかな…」

「多分…?」

「起きた瞬間忘れちゃったんだよ」

「何だそれ」




ルルーシュはちょっと呆れたように言うけど、忘れたものはしょうがない。
でも、本当に嫌な夢だった気がする。
僕は一体何の夢を見たんだろう。




「スザク」




考え込んでいた僕の頬に、ルルーシュの白い手が触れた。




「大丈夫さ。所詮夢なんだから」

「そう、かな…」

「心配なら俺が手を繋いでてやるよ」

「子供みたいじゃないか」

「怖い夢を見て起きるなんて、子供と一緒だろ」




言いながら握ってくれる手はすごく優しい。




「ルルーシュ」

「ん?」

「好きだよ」

「……………俺も」

「あれ?今日は素直だね」

「子供が相手だからな」

「ふーん…。子供はこんな事しないけどね」



可愛くない事を言う唇を塞いで深く口付ける。




「…っは、ぁ…」

「ルルーシュ、ルルーシュ…」




抱き締めると抱き締め返してくれる腕。
その温かさに、何故だか泣きたくなった。



「スザク、もう寝よう」

「ルルーシュ…」

「何だ、本当に子供みたいだな」




ふふっ。と、君が優しく笑う。




「大丈夫さ。髪を撫でて、手を握って、子守唄でも歌ってやろうか?」

「…からかってるだろ」

「まさか」




話しながら、繋いだ手の指と指を絡めてもう一度ベッドに横になる。




「大丈夫だよ。今度は怖い夢なんかみないさ」

「本当に?」

「今度お前が魘されてたら、俺が起こしてやるよ」

「キスで?」

「馬鹿が」

「ひどいなぁ」




あぁ、段々瞼が重くなってきた。
ルルーシュの声が遠くに聞こえる気がする。




「おやすみ、スザク」




――おやすみ、ルルーシュ…。
























































深い深い泥のような眠りから意識がゆっくり浮上する。

カーテンから射し込む光りから、まだ早朝だという事がわかった。

起き抜けのはずの頭が、妙に冴え渡っている気がする。




「………」




これも、悪夢、だろうか。



君をこの手に掛けてから、どれだけ願っても一度だって夢になんて現れてくれなかったのに。




君を喪って、絶対君の事を忘れないと思っていたんだ。
だけど、過ぎ去っていく季節の分、君の記憶は薄れて。
君の声も、些細な仕草も、もう簡単に思い出せなくなっていた、と思っていた。




でも、




夢の中の君は、酷く鮮明で。
髪や肌の手触りも、声も、香りも、温もりも、まだ脳に焼き付けられたようにに残っている。




これも、ギアスの呪いだったりするのかな?
僕が君を忘れないように?




なんて考えて、少しだけ嬉しくなる。
僕から君が消える事なんか無ければいい。



それでも、





「夢の中位、嘘は吐かないで欲しかったな」




呟いた言葉は、僕一人だけの部屋の中でやけに大きく聞こえた。





(悪夢に魘されても、君はいない)





end