sample

unconditional love

※金造17歳、雪男12歳です。いきなり真っ裸なので一応背後注意



 ベッドに供えられた淡い橙色のライト。
 そのぼんやりとした光を一瞥して、横たわる形から俯せへと体勢を変え、雪男はシーツを強く握り締めた。
 己の首筋に口付けを落とす見慣れた金色の髪が、照明の色を借りて深い濃淡を現している。一通り雪男の躰を堪能して満足したのか、金造は柔らかくも少しかさついた唇を雪男の肌から離した。上体を起こした金造に合わせて雪男も己が身を金造へと向けた。
 汚れる、と云う理由で互いに全裸だ。一糸纏わぬ生まれた儘の姿をこう云う事で見せるのは未だに恥ずかしい。恋人であろうがそこは変わらない。情交相手を受け入れる為の最初の処理や準備と云ったもの、それを雪男が確り済ませている事を金造は知っている。それが更に雪男の羞恥を煽らせる。こうして対面して互いの視線が絡み合う状態になれば尚更である。
 気を紛らわそうと、金造の傷んだ金色の髪を両の指先で梳くように撫で、そうっと緩慢な動作で左頬に口付けると、鳶色の瞳を細めて「ゆき」と穏やかに名を呼ばれる。こう云う時の金造の声音は、寝惚けているのではないかと疑って仕舞う程に穏やかで、普段の荒々しい言動とのギャップにまたもや羞恥が込み上げてくる。
 スプリングを軋ませ、金造は逞しい腕を晒して、まるで壊れ易い宝物を抱くように優しく雪男の躰を抱き締めてきた。それに雪男も応えて金造の背へと腕を回すと、垂れ目がちな目尻を更に垂れさせて、大型犬のような屈託の無い無邪気な笑みを鳶色の瞳に眩いばかりに映らせた。それが何処となく悔しくて雪男は部屋の窓へと視線を背けた。
 この部屋の窓は小さい。恐らく片引き窓なのだろうが、常に雨戸で閉ざされており、この暗い室内では今が何時なのかそれを知る術は時計しかない。入室してまだ三十分強と云った所だろうから、十四時にもなっていないだろう。
 室内の空調は些か強く今は肌寒い位だ。八月の蒸すような外気が嘘のようである。蝉が鳴く声さえ聴こえない。
 聖十字学園町の一角にある寂れたラブホテル。
 精算は機械任せで、少なくとも『最初から最後まで』は無人の為、まだ中学に上がって然程経っていない雪男でもすんなりと入る事ができる。金造と雪男がこう云う関係になってから、幾度となく逢瀬を重ねている一番安い部屋だ。
「こんな事をさせる為に仕送りしてるんじゃないって、御両親が知ったら絶対嘆くと思いますよ」
「大丈夫や。俺、バンドあるさかい盾姉や柔兄より仕送り多めにもろてんねん。出世払いで全部返さなあかんけどな」
「そうじゃなくて――」
 雪男の反論を赦さぬように唇を塞がれ、口内に舌が挿入される。戸惑いとその性急さに肩を竦めて一瞬身を退くが、素直に舌を絡ませると、金造が嬉しそうな息を漏らして更に口内を蹂躙してきた。二ヶ月振りの甘く痺れるような濃厚な口付けに首筋が泡立つ。雪男は其の儘金造を確りと抱き締めると、甘い感覚に身を任せて瞳を閉じた。


 ――約一ヶ月半前、雪男は大人の階段を上った。
 比喩ではない。精通したのだ。
 それも自慰や夢精ではなく、金造との行為で。
 今でも雪男はその時の事を鮮明に思い出せる。
 いつものように己の排泄器官から金造の猛る雄を咥え込み、熱さと圧迫感を伴いながらも、余裕なく奥へ奥へと激しく穿ち付けてくる金造の野性。彼のこの本能に、雪男は金造と対面する形で胸元のシーツを両手で握り締めて、兎に角快感を拾う事だけを意識していた。その時の自分がどの様な姿で相手を受け入れているのかは流石に知りようがないが、それこそ後で悔いる事になると理解しつつも、咽喉が嗄れそうな程にあられもなく喘いだ。
 苦痛を超えて襲いかかる快感の波。そこに何処となく自分の身に普段とは異なる違和感を抱きつつも、金造に左手首を引っ張られるように強く掴まれ、軽く背が浮いたと認識する間もなく一際深い挿入に悲鳴に似た声を上げた。
 ――漏らしそう。
 その時の妙な違和感を一言で表すならばそれだった。
 金造と肌を重ねるようになって一年近く経つが、精通を迎えていない雪男が憶えた快楽の拾い方、そして絶頂の到り方は所謂ドライオーガニズムだった。
 深く小刻みに打ち付けてくる金造の動きと漏れる吐息から、金造が限界に近い事に気付いてはいたが、雪男は雪男で普段とはまた違う快感―強い尿意に、快感で朦朧とする意識と共に焦りを憶えた。「待って」と制止の言葉を掛けようとしたが、その言葉が声になる前に、金造の呻き声と共に、最奥にペニスが突き立てられ、息を呑む。
 数度に分けて体内に吐き出されていく相手の熱に浸る余裕も無く、突如襲ってきた快感で一気に頭が真っ白になる。己の熱の解放に気付くよりも先に、腹部や胸元に触れた生温かい液体に意識が向いた。
 強烈な快感の所為で今にも失神しそうな自我を必死に保っていると、息を乱した儘の金造が目を丸くして指先を差出し、雪男の下腹部に飛び散った液体を指先で躊躇なく掬って舐めた。
 ――……んん? カウパーやないな。ザーメンや。
 そう云って悪戯っ子のように、しかし心底嬉しそうに笑った金造に雪男は躰を起こしてただ茫然としていた。
 無論、相応の歳なのだから精通自体は知識として得ている。雪男とてそう云う日が来る事は判っていた。しかしセックスによって、しかも前には一指たりとも触れられず、女役として腸壁を強く擦られて精液を出す、なんて事を知る機会はそうそうある訳もなく。
 初めて吐き出した精液を、指先で弄って喜んでいる金造に、混乱から思わず幼子のように泣き出してしまった事は雪男からすれば思い出したくもない記憶の一つである。
 泣き出した雪男が落ち着き、仕切り直して再び事に及んだ際、金造は意識してまだ幼さの残る雪男のペニスを指先や掌で弄ってきた。いやらしくも労わるような手付きで、互いの経験からすればほんの少し雄に触れただけだったが、雪男は直ぐに達して仕舞った。
 絶頂に達する速さと雪男の感度の良さに金造は一瞬戸惑ったが、いつも通り直ぐに一人納得した。何せ雪男をこう云う躰にしたのは誰でもない金造なのだから。しかし何故か雪男は、肩で息をしながら蒼白な顔色で唖然としていた。
 雪男が精通した事で、金造は遠慮が減ると喜んだが、以降のセックスを雪男は拒んだ。
 雪男が躰を重ねる事を拒み続けて一ヶ月強。十七歳と云う思春期真っ只中な上に元々短気な金造は既に限界であったし、そんな金造に詰め寄られる雪男も金造を想うが故に精神的限界が近かった。今迄、ラブホテルは無論の事、時間や隙を探しては、人気のない塾や医務室、図書室に訓練場のシャワー室など、わりと節操なく逢瀬を重ねていたが故に尚更自制が利かないのだろう。
 冬には祓魔師の認定試験がある。中学生ともなると祓魔師の勉学と学業の両立が難しい。けして金造さんが嫌いな訳ではないから落ち着くまで待ってほしい――雪男にそう宥められると金造もその場は渋々了承した。聖十字学園に実力で、かなりギリギリの成績で入った金造にも受験勉強と云う地獄は理解に易かった。しかも雪男は数少ない奨学生として聖十字学園へ入学希望を出す心算らしい。金造からすれば推薦や奨学生など未知の領域だ。受験難易度は飛躍的に上がるだろう、と云った程度である。
 それでも金造は矢張りまだ青く若い。
 絆された後に我に帰れば、祓魔でも学業でも雪男は自分よりも相当優秀な子供である事を思い出す。躰を重ねていた頃とて、金造は雪男が訓練を怠っている姿など見た事はない。何度もはぐらかされれば幾ら鈍感な金造と云えども、雪男がオブラートに包んで行為を拒絶している事くらい何となく察しが付く。
 体格差や躰の未熟さから、性交渉では雪男は自然に女役になっていた。つまり男役がやりたいのかと、金造が意を決してそう雪男に問えば、雪男はきょとんと数度瞬きをして困ったような笑みを零しながら首を横に振ってはっきりと否定した。
「そう云う問題じゃないんです」
 それにそれは金造さんも望んでいない事でしょう―そう雪男に云われて金造は素直に頷いた。
 金造はゲイではない。雪男が特例であり、好きなのは同性でなく異性だ。自慰に耽る際におかずにするのは、そう云う類のアダルト雑誌や円盤、それか脳裏に焼き付けた雪男の痴態の二択である。
 ならば雪男はと云えば、そう云う事を金造が雪男に訊くと曖昧に笑うだけではっきりとは答えなかった。金造が頬を膨らませて不機嫌を露わにすると、雪男は「云っておきますけど、ドライオーガニズムだって楽じゃないんですからね」と呆れたように呟き、逆に批難するような眼差しを金造に向けてきた。暗に金造が好きだと云う、雪男のそのぶっきらぼうな言葉だけで金造は充足感を憶えた。
 雪男自身も此の儘では駄目だと、何かしら思う所はあったらしい。相変わらずの問答の末、一週間後にいつものホテルで逢瀬を重ねる事を取り決める迄に到った。
「その時は、金造さんの好きにしてください」
 珍しくハッキリと行為への希望を述べた雪男に金造が視線を遣ると、その碧く澄んだ美しい瞳には強い決意の光が浮かんでいた。
「容赦せんで?」
 金造が雪男の言葉を真正面から受け止めていつも通りに不敵に笑うと、雪男は眼鏡の奥でまだ幼さが抜けない大きな瞳に金造を映し、真摯な色を湛えた儘に頷いた。
 そして一週間後の、今日。
 待ち合わせ場所で合流し、互いに言葉少なに直ぐにホテルに向かった。慣れた手順でホテルに入り、ドアが閉まるや否や、金造は雪男のポロシャツの釦を外してその首筋に噛み付いた。外気のじわっとした暑さを纏って雪男の首筋に滴る汗が艶やかだった。茶味がかった黒い髪からは嗅ぎ慣れたシャンプーの香りが漂ってきて、落ち合う前に修道院で躰を清めてきた事が判った。雪男が躰を震わせて吐息を漏らしたのを合図に、金造は手に持っている荷物も儘に靴を無造作に脱ぎ捨てると乱暴にベッドへと誘った。





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