We may not know the reason why we're born into this world where a man only lives to die His story left untold.
(人が死ぬ為のみに生き、その足跡は語られる事も無い、 この世界に生を受けた理由は永遠に判らないかも知れ無い)





「お誕生日おめでとう」と云われて「ありがとう」と答える。

志摩はこの定型的な問答が好きではなかった。そもそも誕生日を良い意味で特別だとは思えなかった。
暑苦しい季節に生まれたのに心はまるで冬の様に凍えている。志摩は誕生日が近付くにつれ厳しい試練を与えられた気分になる。
年を一つ経ても直ぐに心が大人に向かう訳ではない。昨日と変わらぬ子供の儘なのにも関わらず指を少し動かす一瞬の間に歳をとる。止まらない時と等しく彼岸に向かう摂理を「おめでとう」と云うのならば誕生とはなんと残忍な事なのだろう。

「……しっかり"嬉しそうに"出来とったやろか…」

仮令如何思っていようが、誕生日を祝われれば嬉しそうにしなければならない。でなければ角が立つ。
心にも無い「有難う」を連呼しなければならなくて、胸が何か靄掛かった様な痛み方をして酷く疲弊する。出来るならば何事も無く誕生日を遣り過ごしたい。
志摩は、勝呂があの時塾に残っていなくて心底助かったと思う。しかしそう仕向けたのは志摩自身だった。

勝呂が志摩を手酷く抱いた翌日、勝呂はあまり志摩に関わってこない。

最初は翌日に響く苦痛に顔を歪める志摩を申し訳無さそうに労っていたが、それを志摩が嫌がったのである。
無論勝呂以外の他人がいる前で姿が志摩に謝る姿なんて、京都にいた頃は特に体裁が悪くて見せられなかったと云うのもある。
志摩を気遣う勝呂、と云う不可思議な状況を明陀の者に偶然見られる度に、志摩は「お前、坊に何したんや」と訝しげに窘められた。毎度はぐらかすのも面倒であった。
しかし何よりもこれは強姦ではなく和姦であり、志摩は翌日に響く苦痛も総て理解し甘受しつつ勝呂を心身に受け入れているのだから畏まられると落ち着かないのである。
互いに欲した翌日が淡々とした状態になったのは、志摩が心配されるのが嫌で逆に苦痛を我慢しだした。それに勝呂が見兼ねたのだ。
一度この件で好い加減痺れを切らした勝呂に問い詰められ、勝呂と志摩は話し合った事がある。

――翌日辛いのは俺がちゃんと判ってしとるんですから、心配されるんは嫌なんですわ。柔兄達も心配しはるし。
――やからって自分が無理させたと判っとるのに、それでお前が我慢しとったら逆に心配になるやろ。
――それってどちらにせよ翌日の俺が坊の目に入ったら心配するんやない……
――そうなるな……

結果、行為により志摩の疲弊が強い翌日は、苦痛を我慢する志摩を見たくないが為に勝呂が近寄らなくなり、志摩も用が無い限り勝呂にあまり近寄らなかった。 ハリネズミのジレンマの如くな折衷案ではあったが、これ以上他者が居る前で互いが心を痛めないで済む方法はまだ見付かっていなかった。

志摩は両足を曲げて朝方の如く体育座りになると貰ったプレゼントを何気なく手に取る。
茶封筒の様な色合いの紙袋。底付近に申し訳程度に小さな苺のシールが貼られていた。セロハンテープを剥がして中を見ると日焼け止めとメモが入っていた。
女性らしい柔らかく丁寧な文字で定型句と「日焼けに気をつけてね」と書いてあった。差出人は朴朔子である。

「いやいや、男やっちゅーに…やけど焼けると赤くなるんやった…」

つい一人ツッコミを入れつつ志摩は苦笑して袋に入れ直して横に置くと、もう片方の白く厚みのある袋を手に取る。綺麗な花柄があしらわれており、レースのテープで止められている。
中を開くと可愛らしいメッセージカードに「錫杖使うから」とだけ書かれていた。袋の体と順から行けばこれは神木出雲だろう。志摩は袋を選んだりテープを選んだりしている姿の出雲を想像すると、普段を知っているだけに微笑ましくなる。

「あー成程なぁ……」

帰り際に「手は大事に」と云っていた出雲を思い出す。中身はハンドクリームだった。
同様に袋に戻すと、最後に和洋折衷な華々しい匣が残る。レースやリボンで重梱包されたしえみのプレゼントは、最早この状態でこそ完成されている気がして何となく開けづらい。
志摩はしえみからのプレゼントは其の儘横に戻し、手を脚に回して何かを守る様に小さく丸まり顔を埋めた。

――形に残るのは貰うと困るでしょう

雪男の言葉に志摩は否定したが、慥かに何度か困った事はあった。そしてそれを今まさに痛感していた。
形に残る事よりも自分の為に己の時間を割いて悩み選び、包装をする過程を考えると有難さよりも申し訳無さが増す。頭を撫でる様に叩いたのがプレゼントと失笑した雪男の対応の方が寧ろ有難い。
幼い頃、貧乏ながらに誕生日前後には母が夏蜜柑の寒天などを作り置いてくれてあった。癖のある文字で裏紙の切れ端に「廉造へ。おたんじょうびおめでとう。母」等と書かれたメモが貼られ冷蔵庫に入れてあり、大概一人で食べた。甘酸っぱくて美味しかった記憶がある。
誕生日なんて祝われなくても憶えていてくれるだけで十分だった。大袈裟に云うならば両親に生まれた日を憶えられていると云う事は"生きていて良い"のだとさえ思えた。

「嫌やな、ほんま浅ましい…自分が嫌や…」

丸くなった儘にベッドに転がる様に横になる。
つまりこれは、誕生日と云う節目を理由に自分が存在している事を認識されたい、赦されたいと云う承認欲求が自分にあるのだと、やっと志摩に理解がくる。
志摩は瞳を閉じて考えるのを止め「明日なんか来なけりゃええのに」と叶わぬ願いを吐き捨てた。



******



規則的に何かを叩く様な音に志摩は薄ら意識を取り戻す。外は既に暗く、気も躰も大分楽になっていた。
叩く様な音は足許から聞こえていた。携帯電話の振動である様だと気付くと、志摩は呻きつつ躰を起こして携帯電話を手に取ると着信を見た。
勝呂竜士――液晶の表示に少し身構えつつ間延びした声で電話に出る。

「はいー…?」
『志摩か?お前何回電話掛けたと思っとるんや。夕食も食ってへんやろ』
「すんまへん、坊。完璧寝とりました。夕食も忘れとりましたわ」

眠そうに間延びした声で答える志摩に、電話越しの相手は何処か呆れと気まずそうな声で答える。

『……まあ、そうやと思ったわ。今食い物持って行ったるから鍵開けて待っとれ』
「あ、鍵開けっ放しやったわ…あーそんな腹減って無いんで大丈夫で…」
『おま…好い加減に危機感もてや!』
「え、坊……」

喋っている途中で怒鳴られた挙句、不通を知らせる規則的な音が志摩の耳に流れ、寝起きの志摩は思わず首を傾げた。

「……鍵…どっちやねん…」

切られた電話を耳に当てた儘に志摩は怪訝そうに呟くと、耳から電話を離し困った様に笑いつつ携帯電話の電源ボタンを押す。表示された時刻は丁度二十二時半を示しており、志摩はあからさまに嫌そうな溜息を吐いた。
志摩が再度丸くなりベッドに転がる。二度寝を決め込もうと夢現の狭間に誘われ様としていた時である。扉を叩き志摩の名を呼ぶ声に再度意識を戻すと、片腕で上半身を起こした志摩は相変わらず間延びした眠そうな声で入室を促した。

「……どうぞー?」
「おっまえ、危機感持てて云ったやろ!……ほら、喰いもんや。起きろ」
「う…わ……お、おおきに…」

扉を開き片手に小さなビニール袋を持ち、呆れた様に怒鳴り込みつつ中に入ってきた勝呂が電気を付ける。志摩が眩しそうに目を薄く開くと、目が慣れよく知った人物が確認できるようになる迄待った。
志摩は生まれ付き瞳の色素が少し薄い。所謂明るい茶目だ。虹彩のメラニン色素が少なめなのである。それ故なのか突然の明るさやあまり明るいのは殊に苦手だった。
志摩が髪を染める時も、一足先に染めた勝呂を見て「俺は瞳の色と同じにしよかと思うてるんですわ」と云って美容院に行った。結果、茶髪にして苦笑しつつ戻った志摩を見て、勝呂と子猫丸に苦笑された位である。
風呂上りらしき勝呂は既に私服でブツブツ文句を云いながら鍵やカーテンを閉めると、何も持っていない方の手を志摩に差し出す。最早兄や親の様だと志摩は思いつつ、勝呂の手をとると引っ張られて躰が起き上がる。

「有難う御座います…取り敢えず着替えますわ。風呂は夜中か朝にでも」
「せやな…志摩、これはなんや?」
「ああ、朴さんと出雲ちゃんと杜山さんが誕生日プレゼントにとくれはったんです。ええでっしゃろ?日焼け止めにハンドクリームと……何か」
「意外に実用的なもんばかりやな。何かってなんなんや」

着替えを探していた志摩はこんな事なら隠しておけば良かったと後悔しつつも勝呂に柔らかな笑顔で応えた。勝呂に自分の誕生日を思い出させるのは本意ではない。
最後の何かとは、つまり杜山しえみのプレゼントを指しているのだが、そもそも志摩は開封すらしていない。

「俺に似合うものらしいですわ。坊、開けたってください」
「俺が開けてええんか?お前宛てのやろ」

志摩は「包装が綺麗過ぎて開けられんくて」と困った様に笑いつつ着替えを机上に置いて暑苦しそうにシャツを脱ぐ。横でリボンやレース、破らずに包装紙を丁寧に剥ぎ取っていく勝呂を見て志摩は感心する。
志摩はストレッチ素材の黒のハーフパンツに、白地に柄プリントがある大きめのロンTに着替えると、着ていたシャツ類を適当に丸めて部屋の隅にある洗い物入れに入れた。
志摩はベッドに座る勝呂の横に座ると「貰います」と、勝呂が持ってきたビニール袋を漁り、ぼんやりと野菜がメインなサンドイッチを齧りながら勝呂の指を見ていた。匣を開けると勝呂の手が止まり怪訝そうな顔になる。

「……志摩、これ誰がくれたんや」
「杜山さんですけど……うえええ!?」

中にはアンティークシルバー一色のカチューシャが入っていた。
疎い志摩から見ると、全体的に白っぽい銀色の小さな鈴蘭みたいなものが蔦の様に絡んだ本体に、炎とも雪とも云えない形の大きめの花が三枚程片方に付いている、としか見えない。

「アンティークシルバーやな…似合うって云われたんやろ。つけとけや」
「ぞええええ!?坊がつければええやないですか!いつも似た様なんつけてますやろ!」
「アホ。素材が違うわ。こんな脆いもんは実用向きやない。飾りでしかあらへん。前髪が止められるか。手紙開けるで」
「え…そないなツッコミが来るとは思わんかったわ……」

勝呂にすぽっと頭につけられた志摩は抗議をしたが、真面目に手紙を読む勝呂を恨めし気に一瞥すると、暖簾に腕押しだとサンドイッチを齧りながら手紙に視線を落とした。
要約すると本体に当たる物はネジバナと云う花、大きめの花はフロックスと云う花のつもりで、共に志摩の誕生花らしい。アンティークシルバーなのは志摩の髪色を考慮したとの事。
サンドイッチを食べ終わり、パック型の『期間限定夏蜜柑ジュース』と書かれたジュースを啜りつつ「杜山さんらしいわ」とカチューシャを付けた儘、志摩は嬉しそうに微笑み感嘆した。

「で、坊、もうこれ取ってもええですか?」
「あかん」
「泣きますえ?」
「泣け」
「うああああ……坊のどえすぐろー!」
「好きに云え」
「ほんまに泣きますよ」
「泣け」

志摩を一切見ずに匣の中に他の二人のプレゼントを仕舞いつつ、淡々と志摩の哀願を無下にする勝呂に志摩が更に応戦しようとした時だった。

「そんな顔している位なら泣け。そしたら取ってええ」

志摩は一瞬躰が固まる気がした。咽喉許から腹部に向けて熱く冷たい何かが神経を走る。
勝呂は匣をベッドの後方下に置くと志摩に向き直り、真剣な眼差しで志摩を見詰めた。
長年共に居る勝呂が気付いてしまったのならば、肯定しても否定してもどちらにせよ答えに窮しそうで、志摩は対応に困り視線を逸らすと夏蜜柑ジュースを口に含み勝呂の言葉の続きを待つしか出来なかった。

「お前は去年も一昨年もそうやった。誕生日付近になると他人を避けたり、嬉しくも無いのに無駄に嬉しそうに笑ったり、酷く甘えたりしとった」
「……」
「去年に到っては誕生日当日、学校迄休みおって」

志摩は飄々とした態度だけは崩さず、ジュースの紙パックを弄りながら志摩は去年の今頃を思い出す。

「……あれは坊と愛し合った結果の産物ですわ。熱出てしもうたんですって」
「知っとる。今年みたいに甘えとったな。"どちらかが尽きる迄激しく抱いてみます?"なんて恥ずかしそうに誘いおって」
「……其処迄憶えとるとか流石変態やわ…恥ずい…」
「はぐらかすんやない」

はぐらかすもなにも実際に反芻されれば思い出して羞恥にかられるのは事実である。志摩は顔を朱に染めつつ軽く睨む。しかし矢張り勝呂は変わらず真摯に志摩の顔を見詰めている。
暫しの沈黙の後、観念した様に志摩は肚の底から痛みが湧き出る様な感覚を押し殺し、溜息を吐いて苦笑すると勝呂に向かった。

「……誕生日が苦手なんですわ」
「そうか」
「何がめでたいのか…判らんくて……」
「そうか」
「…慣れとらんからなのか、理由は判らんのですけど。…やから祝おうて貰う度に申し訳なくなってしもうて…疲れるんですわ」

失笑しつつ俯き加減に何とか言葉を紡いだ。勝呂は志摩に付けたカチューシャを取り除き、志摩の片手にあるすっかり空になったジュースのパックも奪う様に手に取ると、勢いよく立ち上がり二つを机上に丁寧に置いた。
嫌われたかもしれんな――と、志摩はそんな勝呂の後姿を視線だけで確認し、内心自嘲しつつ俯いていたが、勝呂は志摩の横に戻ると優しく強く志摩を抱き竦めた。いきなりの事に志摩は狼狽して「…坊?」と身じろぐが勝呂は離してくれそうも無かった。

「志摩、世の中は余計な決まり文句で溢れとる。お前がそう思うとる事を気に病む事なんぞ何もあらへん」
「……」
「よう云った。頑張ったな。幼い頃からずっと一緒におったんにお前の苦しみに気付けんくてすまんかった。堪忍や」

その言葉に吃驚して固まっていたが、志摩も勝呂の躰におずおずと腕を回すと微笑んで瞳を閉じた。目頭が心なしか熱く感じ、泣きそうな自分が居るのに志摩は気付き、勝呂の胸に顔を埋める。

「……坊、俺どないな顔しとりました?」
「情けなくて辛そうで無理矢理嬉しそうな笑みを作っとるって顔しとったわ」
「ひどいわぁ…いつから気付いとったんですか」

涙を堪えきると志摩が顔を上げて勝呂に問う。勝呂は少し呻き考えた素振りを見せていたが早々に記憶から引っ張れたらしい。

「明らかに誕生日を避けとると確信したのは一昨年やな。おかしいと思ったんは明陀が聖十字に所属した二年後やな」
「……坊ってほんま変態やわ…」
「誰が変態や!好意寄せとるヤツを見とりゃ何かおかしい事位気付くやろが!」

呆れた様な志摩の言葉に思わず勝呂が声を荒げた。その台詞に思わず志摩は目を見開いて勝呂を見ると頬を紅潮させていく。
勝呂が志摩に「好き」だと率直に云う事は滅多に無いが、つまりその台詞だと幼い頃から志摩は勝呂から性的な意味で見られていたと云う事になる。
勝呂は仕舞った、と云った感じに志摩を抱き締めていた手を離し、片手を額にやりバツが悪そうな溜息を吐いた。
暫しの沈黙が流れる。志摩は困った様に俯いて首を窄めていたが、勝呂が着ているスウェットのパンツのポケットから何やら着信音らしき物が鳴り、志摩はふと目線だけを音に向ける。携帯電話を取り出した勝呂が液晶画面を眺め「志摩」と名を呼んだ。

「な、なんでっしゃろ?」

志摩が気恥ずかしさを隔さずに顔を上げると、勝呂が携帯電話を此方に向けた。
液晶には七月四日、零時丁度の画面が出ている。志摩は最早隠さず苦笑したが、勝呂はそんな志摩を強く抱き締める様に押し倒した。押し倒された勢いで思わず志摩が呻く。
勝呂が志摩の名をまた呼んだ。訝しげに志摩は首を傾げていたが、強く優しい声が志摩の直ぐ耳許で聴こえた。


「生まれてきてくれて有難うな、廉造」


志摩は思わず言葉を失い勝呂を視る。勝呂は相変わらず真面目な顔で目を細めて微かに笑みを浮かべていた。

「お前が生まれてきてくれへんかったら出逢えんかった。お前が誕生日を享受できなくても俺がその分俺がお前を愛したる」
「……」
「めでたいのはお前やない。お前が生まれてきてくれたからこそ――廉造が生まれ、生きとってくれとるから俺がめでたく思うんや」
「……坊、」

志摩は勝呂から目を離せずに震える声で呼び止めた。

「今、俺、どないな顔しとりますか……」

勝呂は片手で志摩の前髪を撫で上げると目許に口付けを落とした。

「情けなくて困っとってぼろぼろ涙流して泣いとる――そんな顔や」

志摩はそれを聞くと"嬉しそう"では無く、勝呂の言葉が素直に嬉しくて微笑みつつ「坊はほんま気障やなぁ」と、また頬を朱に染めた。
両腕を伸ばして勝呂を求めると、勝呂はそんな志摩を腕に抱き深く口付けた。勝呂の長い前髪が志摩の顔に触れ、擽ったそうに笑いつつ何度も口付ける。
この人は自分の中に無い欲しい言葉を、答えをいつだって探し出してくれるのだ。口付けを終え志摩は涙を拭うと恥ずかしそうに微笑んだ。

「坊、」
「なんや」
「えらい素敵な誕生日プレゼント、ほんま有難う御座います」
「何云ってんねん、こっちの台詞やわ」
「ほなら、俺が生まれてきて坊がおめでとうございます?」

恥ずかし気も無くさらっと云う勝呂が志摩の言葉に苦笑して「それでええんや」と志摩に云う。そんな勝呂に寧ろ志摩が照れて苦笑しつつ「もう一つ貰ってもええでしょうか」と恥ずかしそうに勝呂に伺った。

「なんやねん」
「坊が欲しいです」

――坊が居るだけで。それだけでええです

「お前しとうないって……躰は――大丈夫なんか?」
「おん…今日は優しくしたってくらはる?なあ、竜士さん?」
「お前…!いきなり卑怯やぞ…」

柔らかに微笑む志摩の躰を勝呂は押し倒すと、片手で長いシャツをたくし上げながら志摩の首許に口付けを落とした。



もうきっと大丈夫だろう。流れる時間と与えられる歳と待ち構える死に身を強張らせなくても。
まだきっと慣れはしないだろう。それでも大切な人が道に迷った自分を探し出してくれるだろうから。
志摩はそう思いつつ、苦痛を伴う快楽へと幸福な気分で誘われた。




******



 Make the best of what's given you everything will come in time why deny yourself don't just let life pass you by like winter in July.
(与えられたものを最大限に生かそう、時が総てを解決してくれる、自分を否定するのは止して、まるで冬の様に厳しい7月、そんな虚しい人生を過ごさないで)




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Winter in July(PS.)





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