(フリリク/兎虎/兎贔屓な話)
スプーンを置いて、手を合わせて、ごちそうさまでした、と。その一連の流れを神妙な面持ちで見詰めている正面のバーナビーに、多少の愉快さを覚えつつ、笑ってみせてやる。そんなに見詰めなくたって。
「美味かったって言ったろ?」 「でも、食べ進める内に欠点とか……」 「何でそんなに自信ねぇの、」
よくできました。言いながらぐしゃぐしゃと髪を撫でた瞬間は嬉しそうに綻んだ表情が、すぐさま拗ねたように変化する。「そうやって、僕を子供扱いをする!」そういう有り様が、どうにもついつい子供扱いをしたくなる所以だとは気付いていないのだろうか。かわいいなあ。 だって、普段きらきらと光を纏って、嘘みたいにハンサムなバニーの、垣間見せる幼さは堪らないくらい愛しいものだ。こういうときくらい、出来うる限り甘やかしてやりたくなる。 膨れっ面で、しかしされるがままに撫でられていたバニーちゃんは、ハッと気付いたように首を左右に振って立ち上がった。慌てたように空になった皿へ手を伸ばしながら、あくまで不機嫌な顔を作ろうとしているものだから可愛らしい。思わず吹き出すと、赤い顔に睨まれてしまった。
「――美味しいなら、良かったです。また作ってあげないこともないです、よ。」
隠しきれない弾む声音の、その幼さを拾い上げる立場にあることを尊く思っている。生活感どころか家具さえ殆どなかったバニーの部屋に、俺が来ることを前提にして増えていく家具を見て、弛む口元を抑える方法を知らない。そんなもののひとつである、大きめのソファに座りながら、ありがとうとごちそうさま、そして片付けからおかえりを伝えると、バニーは少しはにかんだ顔をした。似たようなことを、考えているといい。 そう思って笑った俺を見て、何故だかまた少し拗ねたような顔をする。最近のバニーちゃんの悩み事はよく分からないのだ。とりあえず俺関連なのだろうけれど。いい加減気になるから、朝から一緒である今日の時間の穏やかさに、思い切ってその理由を尋ねた。
「ずるいです。」 「何が?」 「虎徹さんのその、僕が何したってかわいいものだって言うような、意味の分からない余裕のことですよ。」
いやいや、とまた笑いたくなる気持ちをぐっと堪える。実際かわいいのに。無自覚だもんな。そんな言葉の代わりに、あくまで真面目に、隣のバニーに向き合う。
「庇護欲ともまた違うけどな、そりゃあ大事にしたいだろ。」
綺麗でかわいいバニーちゃん、と頬を撫でると、くすぐったそうにしながらまた少し不満げな顔をする。普段を格好いいと思っているからこそだぞと首を傾げてみせても、納得はしていないようだった。大事にしたいのも本心だし、俺は何も嘘はついていないのに。 その素直じゃない物言いや、気付くとするようになった溶けるような笑顔を、俺は出来る限り尊びたいのだ。まだまだある。挙げていってやろうかと開いた口は、しかし、頬を撫でていた手に手が添えられたことで中断された。
「僕だって、あなたのことが守りたいんです。」
――まず、その、ファンタジーみたいなヒーロー性。 童話の中の王子様のようだとは、流石に言うつもりはなかったけれど、そんな風に言おうとしていた俺は面食らう。俺のに重ねられた、彫刻みたいな白い手と、こちらを真っ直ぐ見る、潤んだエメラルドの眩しさ鮮やかとを交互に見て、照れくさくて目を細めた。「なに笑うんですか、」「改めて、ハンサムだなあって。」何を今更、って唇を吊り上げたって、変わらず泣きそうな赤い顔をしている。頬から下ろした俺の手を、その白くて綺麗な両手が包んでいた。そういう風にしながら、言葉ひとつひとつを、大事そうにバニーちゃんは紡ぐ。
「……僕もヒーローですから、好きな人を守って、支えていきたいんです、虎徹さん。」
なあ、お前はもうとっくに俺のヒーローなんだよ、バニーちゃん! 僅かに震える声にそう笑おうとした筈が、どうにもこうにも今にも泣き出しそうで情けない顔しか作れない。胸が詰まるようだった。何でこんなに愛しいのかってくらい、愛しくてどうしようもない。どんな予想よりも真摯な有り様。惚れ直すね。頭の中では零れ落ちている言葉が、むしろ溢れすぎて音にならない。堪らない気持ちのまま顔を寄せて、触れるだけのキスをして、お互い赤い顔のまま笑った。つまりは何処までも幸福な話だ。
愛のある卓上
‐‐‐‐‐‐ ハッチーさん、リクエストありがとうございました! 『バニーちゃん贔屓な甘い兎虎文』のつもりです……! とても楽しかった。 ハッチーさんにはサイト・ツイッター共々いつもお世話になっておりまして……優しい言葉に幾度も救われています。そしてセンスに憧れます。それはもう大好きです。とっても好きです。 原稿などなど毎日大変そうですが、これからもひっそりこっそりエールを送り続けますね。このたびはリクエストありがとうございました!
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