(きもち幸佐よりな真田主従/フリリク春希さまへ/ほのぼのシリアス)


 だんな、と佐助が呼ぶと、幸村はおおと応える。そういう大らかな返事は、どことなくおかしいから、佐助はそれを伝えるために小さく笑ってみせるのだ。しかし何故笑うのか分からないらしい幸村は、首を傾げて佐助を見上げてくる。そうしてそのまま、分からないことはさっさと放り投げて、胡座をかいた幸村は違う理由で笑う。それは彼の欠点でもあり、美徳だった。佐助は常々思っている。

「こういう日は時の流れをあまり感じないな。」
「こういう日?」
「寒くもなく暑くもなく、空が明るく、風も穏やかで、縁側で佐助と団子が食べられるような日、だ!」

 差し出した、団子の乗った皿を受け取りながら、幸村が快活に笑った。そんな有り様に吐き出した息の色が、呆ればかりではないことに佐助自身気が付いている。幸村は自身の隣を手のひらで叩きながら、「さすけ!」と一言、座り込むことを促してくるのだ。

「ああもうまったく、旦那はさぁ、」
「む?」
「……団子美味しい?」
「もちろんだ!」

 隣に座り込めば口元に差し出される串に、面食らうこともない。慣れとは恐ろしいものだ。一口、と頂けば、幼く崩される相好に、むずがゆささえ覚えている。こういうときとっさに口角さえ満足に吊り上げられない佐助に、それでも幸村は笑うので問題はなかった。何ひとつ知らなくとも、問題など。
 例えばそれは、優しくはない朝、穏やかではない昼、静かではない夜にだろうと。彼が笑えば、佐助も小さく、微笑もうと努めるのだった。
 そういう自分を、ふと、受け取り直すときがある。そのときの静かな衝撃に、どんな名前も決して相応しくはなかった。
 同じような天気、同じような時間には勿論、何の関わりがない瞬間だろうとも、それらの穏やかさは思い返され、この目を瞬かせる。積み重ねた沢山のそれらが、どんな瞬間にでもこの足を竦ませる。彼が知らないだろうことを知っていた。彼を満たして輝かせるだろうそれらが、いつか自分たちを殺すことを、少しだって知ることはないだろうと、知っていた。
 だって、いつか、この目を閉じる瞬間に、死にたくないと思わせるのはそういう記憶なのだろう。おかしい話だけれど、そんなことで、生きていけるわけもなかった。それでも佐助は、あの縁側のような明るい場所を忘れることが出来ないのだ。

「――……何だかなあ。」

 もう誰もいなくなった戦場で、ふと、そんなことを考えるとき。
 見上げた先で、空は青くて目映い。どんな色よりもたった一陣の赤の方が好ましい、それだけのことにも、名前など付ける気は欠片もなかった。




ありふれた幸福




 生かすも殺すも。とあるありふれた幸福の話。
 春希さまよりリクエスト頂きました、ほのぼのシリアスな幸佐です! 幸佐要素はもはや皆無に近いですが、とても楽しかったです。何だかとってもポエマー。何だかんだと長い付き合いではありますが、これからもどうかよろしくお願いいたします。
よろしければお納め下さい……!
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