(ウニエビ/華音さまリクエスト/仄暗い) ※口調さえ違う ※もう殆どオリジナル ※人間ウニとアンドロイドエビ ベッドの上、うつ伏せに寝そべる彼は、終わりの見えない話をとても好んだ。少なくとも、この頭の中を走る様々な回路はそんな風に結論付け、そのように彼の言動を体系化することが多かった。 「気付けばいつも似たような話ばかりしてしまっていますね?」 「随分と今更な自己評価をしますね。」 白い枕を抱き込んだ彼は、俺の言葉にふっと破顔した。大の男2人が並んで寝そべっても何の問題はない大きなベッドで、しかし距離はとても近い。普段から作り物だと散々に言う俺のこの手を、彼は先ほどから握りしめたまま放さなかった。 「まあ、あなたとしかこんなに会話なんてしませんし、別に構わないでしょう。」 「データの重複が著しいのですが。」 「お手数お掛けします。」 何の実りもない会話だ。誰が聞いても、その生産性のなさに首を傾げたくなることだろう。重ねられた手のひらをそれと感じるためのセンサーが、普段より少し体温の高い彼を認識している。眠いのなら早く眠りましょう。そう言った俺に、勿体ないと口を窄めたのは彼だった。 ――この体の普遍性がとても愛しいとは、目の前の彼の言葉である。 普遍性あるいは永続性、稼働時間の尽きても、何かしらが残り続けるその無機質さが、とても、と。スリープモードから一番に目に映る彼は、なるほど確かにひどく愛おしげにこの顔を覗きこんでいるものだ。 「あなた、本当にアンドロイドらしくないですよね。」 「実験的にそういう風に作られています。」 「添い寝をしてもらったと言ったら、使い方を弁えろとまた叱られそうです。」 「セクサロイドではありませんから。」 「……あなたまでそういうことを。キスぐらい一般的な愛情表現でしょう?」 拗ねたような顔を晒すものだから、反射的に口角を吊り上げた。ますます顰められる眉と、悪趣味だ、という呟きは恐らく俺に対するものではない。大方プログラムの作成者あたりに向けられているのだろう。「人肌恋しい気分が分からないっていうんですかね。」「アンドロイドを相手にするところが問題視されているのだと思いますが。」生産性のない会話の中でふと笑んでみせる、彼のそういう人間的なところはどうしても理解など出来ないのだ。本来ならば不必要な、そのくせ容量をひどく食うプログラムは、肝心なところでやはり役に立たない。 「俺、すごく思うんですけどね、例えば明日俺が撃たれたら其処でこの存在はジ・エンドですが、」 「……俺だって撃たれたら壊れると。」 小さく挟んだ言葉に、あくまで柔らかな動作で首を左右に振る。彼が何よりも気を遣っているその細いブロンドが、ライトを反射して光るのを見た。ええそうですね、でもね、と。まるで分からない子供を諭すかのような声だった。 「あなたの回路のなか、そのチップのひとつでも残っていたりなんかしたら、あなただと認識しますよ、俺は。」 俺にはそういう融通はききません。 彼はそう言って、口元を枕に押し付けた。細められた目が、ずっと重ねられたままの手を見詰めているのを見て、何か返す言葉を探したがどうにも処理が上手くいかない。眼球を模したレンズが、キリキリと引き絞られる音がする。彼のどんな所作も、正しくデータとして集積されていくのだ。人間の記憶よりはずっと確かで、鮮明に、俺は彼を記録していることが出来る。彼の言うその、人間の脆弱性を余すところなく発揮した後でさえ記録は残るということ、それに対する正しい見解というものを持てないのだった。 「――子供はもう眠る時間ですよ。」 見つからない言葉など早々に放りだし、ようやくそんなことを言うと、彼は虚をつかれたような顔をした。珍しく丸く見開かれた目から、すぐにわざとらしいほど幼い、拗ねた表情が作りだされる。 「子供って、子供はないんじゃないですか、流石に。」 「難しいことばかり考えたがるのは子供でしょう。」 「答えの出ないようなことを考えるような、無駄なことが好きなだけです。」 ならば、愛についてなどはどうでしょう。 あくまで真面目に提起の形をした発言に、彼は声を上げて笑いだした。堪らないとでも言いたそうなほど大袈裟な笑い方だ。「愛だなんてそんな、あなたが真面目な顔で、そんなこと!」笑声の隙間に、そんな言葉が挟まれる。失礼な話だ。 「愛、愛とはまた、哲学的なことを言うんですね!」 「ピロートークにはお誂え向きだと思いますが。」 「またそういうジョークを、……愛の定義くらいなら、俺だって興味はありますけど、でも、」 苦しそうに笑いながら、彼が不意に重ねた手のひらを握り直した。深くなる目の色。そういう有様全てを理解出来ないと言っているというのに。 「あなたの永遠性にそんなもの不要ですよ。残るのはどうせあなたの一部です。実験的で、貴重な、アンドロイドたるあなたの、ほんのひとかけらが受け継がれていくことでしょう。」 握られた手のひらが軋んだ音を立てる。身じろぐたびに僅かに鳴る金属の擦れる音に、彼はまた俺には解せない理由で眉尻を下げて笑ってみせた。 あくまで試験的にアップロードされていく、実用的ではないくせに容量ばかりを割かれているプログラムは、思考回路を難化させるばかりで生きた発展性に乏しいのだ。何かを理解し、人のように言葉を紡ぐには何時だって不足している。言葉のそれ以上出ない俺を見て、彼は怪訝な色を表情に滲ませて首を傾げた。 「……どうしました?」 「ショートしそうだ……しそう、です。」 「本当だ。だから言ったのに。」 壊れないでくださいね、と放られる言葉の無責任な響きは、どうにも弾むようだった。記録されていく彼はいつも楽しげである。刹那的な有り様を晒して、それきりだ。自分達がもう此処から何ひとつ展開することは不可能なのは分かっていたが、それでも何かを理解したかった。 つまりは積み重ねたデータに、今し方彼の笑い飛ばした名前を付けてしまいたいと思っている。最後の最後まで開かれることのないような場所に、仕舞い込もうとさえ考えている。そうして脈々と受け継がれていくかもしれないほんのひとかけらを、夢想するように。だからこれは紛うことなく、そういう話なのだった。 ミッドナイト・トラジコメディー ‐‐‐‐‐ 華音さま、リクエストありがとうございました! 兎虎かウニエビ、ということでしたが、オリジナル感たっぷりなウニエビを贈らせて頂きたく思います……。何かご不満がありましたら、書き直させて頂きますので! 華音さまにはいつもお世話になっていて、感謝の気持ちは本当に溢れんばかりです。いつも優しい言葉をありがとうございます。色々と至らない身ではありますが、これからも宜しくお願い致します。このたびはリクエストありがとうございました! |