(前の兎→虎続き?/最終回後とか)


 たったひとりの相棒なのだから、大切に思うのは当たり前だった。そんな彼の、心を長らく占めていただろう復讐の文字が消えて、もうやっと幸福になろうということが俺はとても嬉しかったのだ。おまえがこれ以上少しもさみしくならないといいと、まるで、祈るみたいに。
 ――こんなに世界は色に溢れていたんですね。
 そんな言葉で立ち竦むバニーの手を取って、伝えてやりたいことがたくさんあった。朝の空気の澄んでいること。真昼の空が眩しい青をしていること。雲がゆるやかに流れるということ。夜、様々な光に照らされ、色付く影のこと。知るたびバニーは目が眩んだような戸惑った顔をするから、俺は笑ったのだ。ひどく幸福な心地だった。うつくしい世界とやらを知って、俺を見てぎこちなく笑う、そんな姿がどうにもしあわせだった。
 理由はどうにも解せないが、おまえのしあわせを願ってやまないのだ。俺以上に真っ直ぐ前しか見られないような目を、ひどく尊く思っている。何かと一生を誓いたがるそのくちびるは、しかしいつか正しい有り様で華奢な手でも取りながらに同じことを言ったりするのだろうと、そしてそれはより甘ったるいものなのだろうと、当たり前のように思っている。俺はそうだというのに、バニーはまるで、傷付いたような顔をするのだ。
 僕はあなたが好きなのにと、拗ねたようにものを言う。机に突っ伏して、焦燥感の行き場を見失った顔でくちびるを結んだのを見て、俺は笑うしか出来ない。好きだなんて、そんなきらきらとした感情が向かう先がどうして俺でなければならないというのか。思っても言わないで黙っている。バニーはみどり色をゆらゆら不安定に、今にも泣き出しそうに揺らしながら、マグカップの縁をなぞっていた。
 たとえば彼を形づくるすべてをうつくしく、愛らしく、大切に思っていたとして、それがどうして恋や愛だと断言出来るだろう。おれのこと、すきになってください、なんて。そんな風に、手放しの駄々をこねる子どもみたいに言う、バニーをいとおしく思わないわけがなかった。それでも俺が、一体どんなやさしさをこれに向けられるというのか。人を好きになるとはすべからく幸福なものでなければならない。例えば俺がそうであったように、正しいしあわせをもたらさなければならないのだ。腕を前に伸ばして、その柔らかな髪を撫でる。こんな指の先を繋ぐような曖昧でやさしい触れ合いばかりがおまえのしあわせならば、こんなことはもう止めた方がいいに違いなかった。
 いつかの話ばかりをしている。もしもおまえがこの先、やさしくしあわせな恋をして、その人と結ばれて子どもだって生まれて、そういう幸福だけがおまえを生かすようになったころ。そんないつかに、もしかしたらあれは恋って名前のつく感情だったのかなあって、笑えるように。


今にうるわし恋の散逸

 →あとひとおしでハッピーエンドな気がしないでもないから、片思いでもないような。
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