(2424/クル→レム←フェリ)



 彼は一体何処を見ることがあるのだろうか。
 ふと思って、その視線を辿ってみようとするが、いつも細められている目の先なんてクルークに分かるわけもない。最初本についてだった筈の彼の話は、何時の間にか取り留めもない日常を辿り始めている。穏やかな声が、昨日今日あったこと、空の色を語る。だからこそ思考が逸れたのだ。

「……どうしたの、クルーク?」

 きょとんと、クルークの俯いた顔を覗き込んできたレムレスからは、いつも通りの甘い匂いがする。当たり前といえば当たり前で、彼はお菓子が魔力の源なのだし、ひとつの存在としてお菓子を愛していた。見るものをひとつに限るなら、きっとお菓子が一番有力だろうかと半ば本気で思う。

「具合悪いの? 甘いもの食べる?」
「あ、……考えごとをしていました。」
「そっか、なら気晴らしにぷよ勝負でもする?」

 にこにこ笑って、レムレスが何でもないように言うから、クルークはきっと輝く目で彼を見てしまっている。レムレスは、クルークが他人に抱くだろう憧れのすべてを占めているのだ。特別も特別、眩しくて堪らないし、少しでも関わりたいし、それこそ視線の先だって知りたくなるというものだった。
 喜んでと二つ返事をしようとしたクルークは、しかし突然レムレスが自分の後ろを見たので声を出せなかった。あれフェーリ、とやはり軽い調子の声に、ぎこちなく振り返る。僅かに息を切らせたフェーリは、クルークは視界に入っていないのだろう、レムレスだけを真っ直ぐ見て口元を綻ばせた。

「せんぱい、探したわ……」
「そうなの? ずっとクルークと話してたんだ。」
「……クルーク、」

 そこでようやくかち合った視線は睨むようなもので、クルークは苛立ちも露わに眉を顰めた。さっきまで彼を独占していたのはクルークだし、彼はクルークを邪険に扱ったりはしないから、フェーリは多分嫉妬をしているのだろうと容易く知れる。うらやましいだろうと自分の心中を満たす優越感は、もっとよく分かっている。
 レムレスは睨み合う2人なんて気にしていない様子で、とりあえずフェーリもどうぞ、と穏やかにキャンディを差し出した。途端にきらきら輝くフェーリの瞳を、クルークは大層煩わしく思っているのだった。

「僕に何か用だったの?」
「……邪魔者が、居ないときにするわ。」
「こらフェーリ、そんな言い方しちゃだめだよ。」

 窘められて口だけは噤んだフェーリは、憎々しげにクルークを見ている。何だよ、とつい口から零れ落ちそうになった言葉を寸でのところで押し止めた。苛々する。
 レムレスは一体、どこを見ているのだろうかなんて。結論の出ないことを考えるのは何て無駄なことだろう。誰も特別ではないだろう人の目線の先なんて、その人を幾ら特別に思っていても仕方ない。

 だから、これは運命だわって頬を赤らめる、フェーリが何時だって訳も分からず狡くて堪らないのだ。おまえだって同じのくせにと、悪態を吐き捨てたくなるような醜い感情に、クルークは歯軋りして抱えていた本を抱き直した。




ふたりのむちのいきつくさき。


 20thのトライアングルっぷり何なんですかねっていう。
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