(黄←赤/ありがちラブロマンスのつもりだった/2100キリリク)




 わかりやすく、かんけつに、ひとことでどうぞ!




「せんぱい、何か良い言葉は見つかりました?」

 定例の侵略会議の後、にやにやとしながら近付いてきたクルルが、軽い調子でそう尋ねたとき、ギロロは眉を顰めた。言葉がすぐさま出て来なかったのは、例の如く不甲斐ない言動を繰り返す小隊長に対する小言へと思考を巡らせていたからだ。
 反射的に何のことかと尋ねかけ、しかしすぐに思い当たるものがあって口を噤んだ。幾度となく戯れに交わし続けている、会話のことに違いない。

「……貴様のその知識欲とやらを満足させてやるつもりはないと何度も言っている筈だ。」

 そううんざりと告げると、クルルはやけに上機嫌な弾むような声音で、不満げな言葉だけをなぞった。えーだとかつまんねェのだとか、そういう類の言葉だった。
 ――その身に巣食う恋とやらを、正しく簡潔な言葉で表せと。
 思い出すのも容易い程度の以前に、クルルは確かにそう言った。ギロロにはどうにもその時の会話の流れは思い出せなかったが、しかし確かに、そうやって問い掛けてきたのだ。

「その叶わない恋ってやつ? アンタみたいなのから、聞いてみたいもんだろ?」

 恋やら愛やら、そんな浮ついたものじゃないと何度も言っているというのに、クルルは尋ねるのを止めない。止めないから、ここ数日ギロロは必然的に、その軸で彼女のことを考える機会が増えた。
 しかし、考えれば考える程、かつての見方によっては甘酸っぱかった感情が、もっと深く普遍的な父性じみたものに変質していることを自覚するばかりなのだ。少なからず衝撃であった。開いてしまった、どうにも行き場のない穴のようなものを、クルルにはどんな努力をもってしても伝えられないという自信もあった。
 だからギロロは、本当に、クルルに伝えられるような言葉は持っていないのである。

「何も分からん言葉が見付からん、これで満足か?」
「なに苛々してんだよ、隊長があの調子なの、今更だろ?」

 苛立ちの原因を定例会議にのみ絞ったらしいクルルが、しょーがないしょーがないと、勝手に納得して面白がるような声をあげた。思えばクルルは、基本的にケロロの側から離れずに物を言う。悪友だとか何とかいい加減にすればいいとギロロは思うものの、少しばかり意外に思う気持ちもあった。最初、あまり他人に歩み寄らないだろうと予期していた男は、気付けばとても近くで意地悪く笑っているのだ。
 恐らくは特別という曖昧なもので括られる、その一部であるという自負が、僅かながらギロロにはあった。
 もしかすると一生他人など好きにならない筈だったろう男の、何がしかの特別の一部であることは好ましくさえ思えた。それ以上でもそれ以下でもなく、むしろ愛玩じみてはいても、当たり前の感情の動きだと思っている。――いた、けれど。軸を失って混乱している思考回路では、もうそれさえあやふやだった。
 あの夢見がちの甘い恋に似たものの変質を知らなければ、一生気付かなかっただろう取っ掛かりのようなものが、その中にあるように思われた。不明瞭なかたちをとるそれを、どう扱えば良いのか、ギロロには分からない。

「さあはやく、誤魔化さねェで。」

 戯れに投げ掛けられた数々の言葉より、焦れた子供のような声でクルルが急かす。人を揶揄うことの、何がそんなに面白いのだろうと、思うのはこれが初めてではなかった。所詮はいち研究対象でしかないだろうこの身を、その目がどんな風に見ているのか。気になったことは、あっただろうか。

「……だから、分からないとさっきから、」

 出どころ不明の苛立ちを込めた言葉を遮るように、分からないってと首を傾げてクルルが言う。呆れたような、揶揄するような、軽い調子の声だった。

「自分のことだろうに、変なこと言うんスね。」

 何故か最近毎日毎日とても機嫌の良いらしい男が、独特の奇怪な笑声をあげた。不明瞭で覚束なく揺らぐ足元、これで言葉など見付かるわけもない。ああそうだ、自分のことだ。日々変質する感情を、ギロロはクルルの問い掛けで再認識し続けるのだ。そんなこと、知りもしないに違いない。

 ――わかりやすく、かんけつに、ひとことで、

 手を伸ばしたのは、全くの無意識だった。
 唐突に掴まれた腕に、意味が分からないと肩を竦めたクルルを見て、ギロロは随分とぎこちなく口元を歪めようとする。正しい言葉など何処にあるというのか。ただただ疲れているだけだ。自分が、縋るような目でもしている自覚ならばあった。
 この、理不尽で不可解な心の動きについて。例えば、分かりやすく、簡潔に、一言で表すとするならば。



「――……すきだ。」


 もう答えなんていらないから、今すぐ其処で、くだらないと笑ってくれ!




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 カウンター2100でねずみさんからリクエスト頂きました『黄←赤』です。……です? とにかく伍長ご乱心の話です。リクエストにそえてない気がするとかそんな。片思いっていうか告白しちゃってるとかそんな。
 曹長が伍長好きじゃないっていう前提がこんなに難しいなんて知りませんでした……。色々はじめてなことをやってみたりしたので、気に入らなかったらごめんなさい。イメージと違えば、幾らでも書き直しますのでお気軽にご連絡ください……!
 リクエスト本当にありがとうございました!
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