(黄赤/ふわふわ)



 頬を撫でる。決して柔らかくはない感触を、目を細めて堪能する。いつもよりは穏やかな動きで、手のひらを動かした。
 そんな俺に鬱陶しげな視線を寄越しながらも、少ししおらしくしているだけで強く拒めはしない先輩は、優しいというより迂闊で無防備だ。そうして諦めたように力が抜かれた肩を横目に、俺は笑う。んなことで隊長とかに変なことされたらどうすんだよ、と冗談交じりに声を出した。

「……何が言いたいか分からんが、擽ったいから止めてくれないか。」
「俺様がンなこと聞くとでも?」
「全く……人肌が恋しいと、貴様のような奴も思うのか?」

 言いながら、不馴れそうに伸びてきた手のひらが、俺の頬に一瞬撫でるように添えられたかと思えば、ぐいと乱暴に押し付けられた。すぐ離れていったそれに、ぞくりとする。嗚呼、ほら、堪らなく迂闊で無防備だ。

「……俺もアンタと同じ生き物だし? それに、先輩には特別触りてーかも。」
「何だソレ。」

 手を頬から肩に移して、反対側の肩に額を付けて体重を預けるようにする。俺より格段に高い体温に、目を閉じた。
 戸惑ったような身動ぎの後、子供にするように背を二度、柔く叩かれた。どうも苦しい。息が、し辛い。

「せんぱい、」

 目を開ける。緩く息を吐く。
 何だ、と尋ね返してくる低い声に、こんなにも。しかし当の先輩はやはり無防備に、俺の背を擦ってくるのだ。これだからオッサンは、と誤魔化すように喉の奥で笑った。何にも知らないのだ、この人は。何処までも無防備である。晒された首筋に額をまた押し付けて、声を出して笑った。

「俺、多分アンタが思ってるよりはずっと、アンタのこと好きっスよ。」

 そうやって何にも知らない先輩は、慌てたように声を荒げる。その顔は、当たり前のように赤いのだろう。見なくても分かってしまう。
 ――ふとした瞬間に、姿を歪めようとする感情がある。きつく目を閉じて、また笑った。あまりにも容易く変質するそれを知っている。そんなものに、俺はそれでもすがりたくて堪らないのだ。多分とても、優しく在ってみたかったのに。
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