恐らくはずっと餞のはなしだった。
 まだ日の高い頃に訪ねてきた友人は、やはり花を抱えていた。石田が餞と呼んだそれに視線を向ける長曾我部を見て、男は柔らかに微笑む。慈しむようなその顔の理由を、長曾我部はずっと掴み損ね続けていた。
 花弁を噛むのは癖か。
 花を、二度は渡した後だったと思う。違うと知りながら、そう尋ねたときにも、その眼が揺らぐことは無かった。ああまあそうだろうなあ、と何もかも理解している風に息を吐いた理由を、長曾我部はようやく知ったのだ。
「何に対する餞なのかは、分からないんだ。」
 友人が紐を不器用に結び直しながら、平坦な声が言う。嘘を吐いている声だった。伏せた瞳が落とす影をただ眺めていた。穏やかでしかいられないだろう男が、辛うじて人のような顔をするのは、かつてを考えるときばかりだった。だから石田は餞だと断言し、それを片端から食い潰していくのだろう。長曾我部はしかと諒解する。
 たとえばそれが、記憶の中のうつくしい感情へ、手を振るために必要なことならば、やるべきことはひとつだった。


終を問う。

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