彼にたった一度だけ、花を贈ったことがあった。
 男が渡したいと願った沢山の物の中に、花は勿論あったけれど、何だかんだと贈ったのは一度だけだ。花を見たことは沢山あった。それが花であれ言葉であれ行いであれ彼に贈り、彼を満たしたかったのは、誰よりも自分のためだった。うつくしい人がうつくしくあるための、最善を尽くしたかったのだ。
 共に行く道すがら、愛らしい花を指差しても、彼は決して心惹かれてはいなかった。それは色の薄い彼に良く映えそうな、鮮やかな色の花だった。実際に、その髪に添えたとき、とても良く映えていた。眉を顰め、満足したかと投げ遣りに放る、ただそれだけのことでも随分と得難いものであるとは分かっていた。ただそれだけでどうしようもなく高鳴る胸のことを、そうして堪らなく胸を塞ぐ感情のことを、男は生涯告げるつもりもなかった。
 不意に彼の細い腕が、些か乱暴に、それでも同じように男の髪に花を添えて、似合わんなと口元を歪めるのを見て泣き出したかったのを覚えている。恐らくはそれが、心に花咲くような感情のすべてだった。


夢を見る。

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