届けてはいけないものだとは分かっていた。2人のあいだに在って、決してこれ以上動くことはないだろうもの、それに触れることはならないことだと、長曾我部は分かっていたのだ。どうにも動けなくなった者が、どうして同じように動けない者たちを何とか出来るだろう。胸につかえる何がしかの感情が、石田が花を受け取るたびに大きくなるのは知っていた。今日の花は、日だまりのような淡い黄だった。
 今日は天気が良いな、と石田が呟く。花を受け取ってからの彼が言葉を発するのは初めてのことだった。それがどんなに取り留めのないことだろうと、この空間に、言葉が存在することに長曾我部は驚いていた。膝に乗せた淡い黄を指の先で撫でながら石田が、長曾我部がいつか尋ねた、理由の話を蒸し返した。美味くはない。美味くはないがと、同じ調子で呟いた。あれは幾ら前のことだったか。
「花は枯れるだろう。」
「……ああ、」
「だが、ただ捨てると、腹が立つ。」
 石田はそう言って、笑ったつもりだったのか、小さく口の端を歪めた。ただそれだけのはなしだと彼が満たされた声音をする。長曾我部はただ、彼が餞だと呼んだ花が、膝の上できつく握り締められるのを、じっと見ていた。


臍を噛む。

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