たった一度だけ、彼に花を贈ったことがあった。 長曾我部には、花を贈る気持ちなど分からない。忙しい合間を縫って、自ら拙い花束を届けにくるその気持ち、知ったところで何を出来るわけでもなかった。何にせよ、ただ花を届けるだけであった。 それでも珍しいと言われる花を手に入れ、僅かな高揚感と共に襖に手を掛けたとき、ただ紐で結われただけのそれらが、わざとらしいほどに似ていることに気付いて狼狽した。しかし、文机を前にして石田は、花を見て笑みさえしたのだ。 生けないのかと、予期していたものとはかけ離れた、一頃とは別人のような柔らかい声で問う。ここ最近彼はよく笑った。長曾我部はそのことに、ひどく安堵していた。 「――餞ではない花を、久しぶりに見た。」 緑の滲んだ薄い金の瞳を細め石田が言ったとき、長曾我部は何も尋ねたりはしなかった。ただ、口の中で餞の4文字を唱えただけだった。 「……そりゃあ知らなかったな。」 「貴様が嘘を吐くなど、珍しいこともあるんだな。」 そう言って、静かに笑うのを見ていた。もう彼に花を贈ることはないだろうと漠然と考える。たった一度だけ彼に花を贈ったことがあったと友人が顔を歪めたとき、まるで自分を見るように見ていたことを、思い出していた。
目を縫う。 |