※撤退イメージ






 あなたがあなたである最後の日に。


 もう二度と会わないな、ときみが言う。何処かで擦れ違うことも、もしかしたら一生ないのかもしれないな、と静かな声できみが言う。良くは見えない表情が、あるいは、寂しくて悲しいものであればいい。そう思って、しかしそれがあまりに夢想じみたものだから、僕は笑った。
 頭上の蒼穹だけがあまりに美しい。
 今日という日、僕らが別れを告げたすべてが、泣いていなければいいと思う。

「アンタが、少なくともアンタらしく在るのは、今日が恐らく最後だろうなァ。」
「……僕もね、この場所に居たきみが、少しでも、よりきみらしいきみであったように、って。願うみたいに思っているよ。」

 ばーか。
 存外穏やかな調子に罵る彼が、空の青さに眩しそうな顔をする。あの雲の上を突き抜けて、大気圏の外側、深い闇をずっとずっと進んだ先にある場所へ。こういう終わりは幾度となく描いていたのに。

「此処に居たアンタが、ほんの少しでも報われることを、」

 らしくもなくきみが言った言葉が、こんなにも、まるで夢みたいに優しい。きみが何処か厳かに告げる、さようならの5文字に、柔らかく目蓋を閉じた。そうやって呼ばれた知らない誰かの名前に、僕が答えることはもう二度とないのだ。



(ぜんぶ、ただの夢想だけれど。)




 6.カタストロフィー
 ある悲劇的結末について。
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