※微監禁注意。時間軸やら舞台やらは気にしない。





(ねえせんぱい、おれのになってみませんか、)



 曖昧に漂う、頼りない白昼夢のような声で男は言った。少しだけでいいから、とよく分からない譲歩と、縋るように腕を掴んだ掌と。そういうものに揺らいだ訳ではなかったのだ。
 何時逃げても、良いならば。
 俺は言う。構わないと細められた男の瞳は、不自然に穏やかだったように思われた。

 つまるところ絆されたのだろうか。
 鍵も何もない、緩く手首に巻き付けられただけの手枷を、外すタイミングが分からなってしまった。軽く力を入れただけで継ぎ目が外れるそれに、強制力も何もないというのに。

 にげねぇの?

 何日かに一度、他人事のように男は尋ねる。何日居ようと、何とかどうにかしてやるがと男は言う。そんな心配はしていなかった。此処で、何をどうしても、仕方のないことを何処かで知っている。 手首を冷やす金属に戯れに触れては、行き場のない感情を掴みかねていた。その度に曖昧に輪郭を失う、沢山のものに、感傷的な名前を付けたがっているのだ。

 決して、揺らいだ訳でも、絆された訳でもなかった。

「……気が向いたらな、」

 それでも俺は開け放されたも同然の扉を横目に、今日も壁に寄り掛かって、男の背ばかりを眺めている。



100711 35.モラトリアム
 延々と行き場はない。パラレルというか何というか、色々別の話。
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