一世代は前の、掠れた声で愛をうたう歌を耳にして、彼は少し顔を歪めた。「隊長は好きそう、」無責任な、しかし納得出来るそんな評価しか、結局彼は下さなかった。やむを得ない事情――全員揃っての作戦決行がどうとか、そうやってラボから引っ張り出された彼の機嫌はそもそもあまり良くなかった。けれどそれ以上の熱量で、通りに響く愛の歌に、苛立っているようだ。

「愛の歌は嫌いでござるか?」
「別に? ただこれはシリアス過ぎて嫌になりませんかね、ドロロせんぱい。」
「ほの暗い歌も、拙者は好きでござるよ。」
「あー……」

 取り留めのないやり取りだ。好ましい歌の種類で、何かが決定的に決まるわけではない。それでも惰性のように続けられる会話の反対側で、他の3人が作戦決行の準備をしている。「今回は始まる前に失敗しそうだよな、アレ。」季節の割に強い日差しを避けるようにしながら、彼が言う。
 クルル殿は優しいでござるな、と。何の脈絡もなく言った僕に、彼は何でもなさそうに眉を顰めて見せた。彼が後生大事にと抱えている感情が、彼の振る舞いに似つかわしくないほど優しい形をしていることは、もう誰しもが知っていることなのだった。

「確かに君には、やさしい歌が似合うよ。」
「……俺、アンタのそういうとこホント駄目。」



26.ハスキー・ボイス
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