名前を呼ばれて、視線が合って、笑みを交わす。
 思えば何でもないようなことも、終わりさえ見えてしまえばひどく大切なものである。僕は何となくこの日々が永遠だと思っていて、どんな危機も何だかんだ乗り越えてきたから、つい先日頭を苛んだ悪夢のリアルさには辟易した。夢とはそもそもあらゆる側面で不思議なものだけれど、今回大事ではないので割愛する。とにかくそれはリアリティに溢れていて、そうして悲しい夢だったのだ。

「そしたらね、終わりが手の届く範囲にあるんじゃないかなあって不安になっちゃって。」
「ほうほう、だから今日は我輩の家事をずっと手伝ってくれてるんでありますな?」
「うん、僕の不安は結構当たるから、何もないといいなあって思ってね。」

 小さい体で手慣れた動作で家事をこなす宇宙人は、僕の言葉に心配性だとただ笑った。朗らかに、ゲロゲロ笑う。僕は本当にあの夢が恐ろしくて、上手く笑い返せなかった。「ねえ軍曹、」手を伸ばすと、きょとんと首を傾げながらも、指を繋いでくれた。そこでようやく、少しだけ笑えた。こんなふうに少しずつ少しずつ、たくさんのものを交わしていくことが出来ていると思っているけれど。それでも、ねえ、もしかしたらさ。
 繋いだ指の先なんて、きみにとって振り払うに容易いものなのかもしれないなあって思っては、さみしくてたまらなかった。

37.ユートピア
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