正しく言葉にする気がなかったからか、そんな機会はついぞ訪れなかった。あれは果たして恋だったのだろうか。それさえ確かめられないまま、手の届かない場所へ感情は流されていってしまった。あの星はまだ青いだろうか。過ぎた年月を換算するとどんなものだか、それさえもう不明瞭である。
 かつて自分が恋い焦がれていたらしい人に、思いがけず再会したとき、俺は大層間抜けな顔を晒していたことだろう。それは随分と天文学的な数字の元でしか起こり得ないようなことだった。久しぶりだなとか何とか、ぎこちなく先輩が言う。互いに階級は変わっても俺が上官なのは変わらないが、態度もやはり変わらなかった。取り留めもない話をした。いつかの昔、俺の口がうっかり滑って、感情に容易く恋なんて名前を付けて本人に言おうとしたときも、こんな風な取り留めもない話の中だった。
 すきですとか何とか、笑えるくらいに飾り気のない言葉が、口から零れて落ちそうになったあのとき。これはあのとき告げなければならない感情だったと、今でも自信を持っている。ああいう、何の打算もない時分、ただただ目先のことですべて満たされていたころ、告げる他なかったのだ。そうすればうつくしい幕引きだったことだろう。

 だから今告げたとしたって、何の意味もないことを、俺はよく理解しているというのに。




「せんぱい、いつか俺は、アンタのことが、」


34.メモワール
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