※青さんが変。






 水音。水音。水音。
 幾つもあるシャワーの、一番左端――主観的に言えば俺の真上のものから水が流れ続けている。だだっ広いこの浴場で、しかし青色は俺の目の前に居た。上から降ってくる水が、尻餅を付いた俺をどんどん濡らしていく。

「あのさ、」

 そんな水浸しの俺に覆い被さるような格好で、シャワーヘッドのあたりに右手を置いていた同じく水浸しの彼は、何とも微妙な表情で掠れた声を発した。
 ――緩んでしまったらしい部品を戻さない限り、この水は止まらないだろう。俺としては、早く解放してもらいたいところだというのに、と。
 鮮やかな青色を見上げながら、そんなことを考える。わざわざ二人揃って濡れることもないのだ。それでも、動ける気はしなかった。腐っても――というのも語弊があるが、この人は、決して容易い生き物ではない。忘れがちではあるが、懐柔的で柔順な顔を崩さずに居続ける彼は、いっそ恐ろしい類いの人である。


「いいよね、こういうの。」
「……意味が分かんねぇぜ?」
「水浸しって少し興奮するってこと。」

 ヘンタイ、と小さく罵りつつも、じわじわと浸食を続ける生温い水に意識を向ける。ラボに帰ったら、すぐ着替えよう。色々と面倒になってしまったから、少し寝てしまうのもありかもしれない。この人と話す度、俺は何か大事だろうものを削られている気さえする。
 頭上で、シャワーヘッドを握りでもしたのか、硬いもの同士が擦れ合う音がした。じとりとした目線を送れば、そんなことは知らないとでも言うような朗らかな笑顔が帰ってきた。

「……離してくれないんスか、ドロロせんぱーい。」

 やだ、と子供じみた返答が返ってきて、正直イラッとする。隊長でも様子を見に来てくれないだろうか。ああでもまたガンプラでも作って、時間なんて気にしてないのかもしれない。というか考えてみれば今、この状況を何とかしてくれそうな奴が来る可能性なんて、限りなく0じゃないか。

「びしょ濡れだね。」
「もうホント、アンタの変な趣味に巻き込まないでくれよ。そのうち何倍にもして返すぜ?」

 ああ、と頷いて、的外れな大丈夫という言葉さえ寄越してくる。そうやって何処となく満足げに、恍惚とした風に、青いのは俺の頬を撫でるのだ。レンズが水に濡れているせいで、鮮明に見えるわけではないが、確実にその顔は笑っていた。

「もしも風邪を引いても、きちんと看病するから大丈夫でござるよ、」


 ……早く誰か来てくれ!



 4.エロティシズム
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